生理のつらさをアロマで解消してみませんか?

生理のつらさを我慢していませんか?
簡単に痛み止めを飲んでいませんか?
身体にとって優しい方法を試してみてはいかがでしょうか。
1.生理痛のしくみ
生理痛は医学的には月経困難症と言います。
月経時に下腹部の痛み、腰の痛みなどの耐え難い痛みを感じることです。
人によって、頭痛や下腹部の張り、吐き気、食欲不振を感じたり、イライラ、抑うつといった精神的に不安定な状態になったりします1)。
その原因の一つとして、子宮筋腫や子宮内膜症などを合併していることです1)。
子宮に良性の腫瘍ができたり、子宮の内膜に似た組織が子宮の内側以外にできたりします。
この場合は、生理中ではないときも痛みます。
もう一つの理由として、生理の血液を体外に排出するために、プロスタグランジンという子宮の収縮を促す物質がたくさん分泌されることです1)。
子宮が収縮するために下腹部や腰に痛みを感じます。生理痛に悩まされている女性のうち、こちらの理由が大半であると報告されています1)。
したがって、子宮収縮による痛みである生理痛に対しては、リラックスすることが重要です。生理痛を和らげるセルフケアとして、体を温める、体を締めつけない服装、軽いストレッチ、アロマセラピー、ツボ、鎮痛薬の内服などがあります。
リラックスさせるために、身体にとって優しい方法の一つとしてアロマセラピーをお勧めします。
2.アロマセラピーの概要
生理痛の緩和に、アロマオイル(別名、エッセンシャルオイル)を使った対処はいかがでしょうか。
アロマセラピーは精油の芳香を利用して心身のバランスを整えたり,痛みや炎症などの症状を緩和したりする補完代替療法の一つです2)。
アロマオイルは植物の花や葉、果皮、樹皮、根などから抽出された天然の油です。
紀元前からマッサージの重要性と効果は,古代ギリシアの医師、ヒポクラテス により説かれています3)。
11 世紀には中世アラビアの医師、アヴィセンナがローズオイルを外科処置に用いています4)。
1940 年代にはフランスの医師ジャン・バルネが治療にアロマオイルを用いており、近代アロマセラピーが確立した背景があります3)。
アロマセラピーは欧米諸国では植物療法,リラクセーション法の一つとしても位置付けられています4)。
日本では医療の専門家によるホリスティックなアプローチとして、補完・代替療法の一部に位置づけられており,患者さんの Quality of Life の向上に活用されています4)。
また、香りの楽しみ,リラクセーションを目的とした簡便な使用が普及しています。
アロマの香りの分子は、嗅覚を担う鼻腔でキャッチし、感情や本能を司る大脳辺縁系に伝えられます4)。
その情報は視床下部へ運ばれ、自律神経系や免疫系、内分泌系に作用し、機能のバランスを整えます4)。
アロマオイルとベースオイルをブレンドした身体へのマッサージでは、皮膚を経由して血液循環に吸収されて作用します4)。
3.アロマセラピーの効果
医療現場では看護師が,がん患者さんや産婦さん、産後のお母様に対して,睡眠導入,浮腫の改善、リラクセーション導入などの目的でアロマを使用しています5)。
アロマの効果として,国内外から血圧降下6),疲労改善7)、不眠改善8)などが報告されています。
著者が所属する東京医療保健大学には「ひいりんぐぽっと」というクラブがあります。
患者さんへの癒しが上手な学生が集まり,アロマオイルを使ったハンドマッサージの技術トレーニングや精油効能の勉強会,毎月 1 回のボランティア活動を行っています。
(現在はcovid-19の感染拡大防止のために、ボランティア活動は中止しています。)
ボランティア精神が高く,人々に心理的な安心感を与えることがとても上手な学生たちの集まりです。
ボランティアは社会貢献を目指して、東日本大震災での被災者・避難者の方々、総合病院の入院患者様と産褥入院中のお母様、老人保健施設の利用者様,自治体の知的障害者支援施設の方々,近隣の重症心身障害児の家族会の方々を対象に活動しています。
主に、対象患者様にアロマオイルを使ったハンドマッサージ(以下、アロマトリートメント)を提供しています。
気分が優れなかった患者さんに「気持ち良くて気分がよくなった」,ベッドから起きることのできない患者さんにも「手が温かくなった」と評価をいただきました。
産後のお母様からは「リラックスできた」「いい香りでリフレッシュした」と高い評価を得ています。
このような活動を通して行ったアロマセラピーの効用に関する研究成果を報告します。
【研究報告1】
近隣の市民 210 名に対して,10 分間のハンドアロマトリートメントを実施した結果、リラックス感が 96.7%,満足感が94.8%、快適性が93.4%、爽快感が 91.4%、眠気の誘発が 69.0%の方に得られました9)。
アロマオイルはラベンダー,イランイラン,ゆず,ローズウッド,ネロリの 5 種類の中から1 種類を選択してもらいました。
【研究報告2】
出産のために入院した産後のお母様に対してハンドアロマトリートメント20分間を実施しました10)。
アロマトリートメントを実施する群(115 名)と実施しない群(114 名)の 2 群に分けて比較しました。
精油はラベンダー,イランイラン,ゆず,ローズウッド,スウィートオレンジの 5 種類の中から1種類を選択してもらいました。
その結果、リラクセーションに群間差が確認されました。
実施した群のお母様たちはリラックスし、高い満足度が得られました。
【研究報告3】
育児中のお母様に対するハンドアロマトリートメントを実施しました11)。
アロマトリートメントの評価は,とても満足が 88.9%, 満足が11.1%でした。
「リラックスできた」「癒された」「リフレッシュできた」という意見が抽出されました。
以上、3題の研究報告より、アロマトリートメントはリラクセーションをもたらすことが示唆されました。
4.アロマセラピーの使用方法
セルフケアで一番簡単でおすすめなのは、アロマオイルをティッシュに1~3滴たらして枕元やデスクに置き、香りを楽しむ方法です。
ディフューザーを用いて拡散させる芳香浴法はおしゃれでインテリアとしても素敵です。
生理中にお薦めなのは、浴槽に垂らして香りを楽しむ沐浴法です。
この方法ではアロマを楽しみながら身体を温めるダブル効果が得られます。
もし、友人や家族がケアしてくれる場合は、アロマオイルとベースオイルをブレンドして肌に塗布するトリートメント法がおすすめです。
ハンドマッサージや背中へのマッサージが気持ちいいと評価が得られています。
仲のいい人にタッチしてもらうと、オキシトシンという幸せだと感じるホルモンが分泌されることが明らかになっています12)。
アロマオイルの効能として、ストレス軽減や不眠にはラベンダー,リラックスにはオレンジ、リフレッシュにはレモン,と報告されています2)3)。ご自分で好きな香りを選ぶのが一番いいのですが、生理痛を感じる女性には、女性ホルモンを整える作用があると言われているイランイランとゼラニウムがおすすめです2)13)。
5.若い女性へメッセージ
若い女性は将来、お子さんを出産される可能性のある大事な身体を持っています。
生理があるということは女性ホルモンが正常に分泌されて、出産できる成熟した身体であると言えます。
生理痛もイライラも眠気もすべて女性ホルモンが正常に分泌されている健康な身体と考えられます。
このような健康な身体をお持ちの方は大変恵まれています。
生理痛はアロマセラピーと入浴のセルフケアで乗り越えて、貴重な時間をリラックスした気分に変えて過ごしていただきたいです。
東京医療保健大学 准教授 朝澤 恭子
<朝澤 恭子先生プロフィール>
所属 :東京医療保健大学 東が丘・立川看護学部 看護学科
職位 :准教授
学位・資格 :看護学博士・看護学修士・助産師・看護師
専門分野 :母性看護学・助産学等
引用文献
1)日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会編集・監修(2020). 産婦人科診療ガイドライン, 婦人科外来編2020, 日本産科婦人科学会事務局
2)塩谷紹子(2015).すべてがわかるアロマテラピー. 朝日新聞出版. 10-13.
3)Hoare, J.著, 鈴木宏子訳(2009). プロフェッショナルアロマセラピー. ガイアブックス.
4)日本アロマセラピー学会(2008).アロマセラピー標準テキスト 基礎編. 丸善株式会社.
5)今西二郎, 日本アロマセラピー学会(2009). わが国におけるアロマセラピーの位置づけ.アロマセラピー標準テキスト. 丸善株式会社. 16-17.
6)Rashidi Fakari F, et al. (2015). Effect of Inhalation of Aroma of Geranium Essence on Anxiety and Physiological Parameters during First Stage of Labor in Nulliparous Women: a Randomized Clinical Trial. Journal of Caring Sciences. 4(2), 135–141.
7)村上明美,他(2008). 産褥早期の母親に対する癒しケアが産後の疲労と母乳育児に及ぼす影響. 日本助産学会誌. 22(2), 136-145.
8)Keshavarz Afshar, et al. (2015). Lavender fragrance essential oil and the quality of sleep in postpartum women. Iranian Red Crescent Medical Journal, 17(4), e25880.
9)朝澤恭子, 他(2016). 一般市民を対象としたアロマトリートメントの実践報告. 看護展望. 41(8), 80-85.
10)Asazawa K, et al. (2018). Effectiveness of Aromatherapy Treatment in Alleviating Fatigue and Promoting Relaxation of Mothers during the Early Postpartum Period. Open Journal of Nursing. 8(3), 196-209.
11)Asazawa K et al. (2020). Implementation and Evaluation of a Postpartum Care Program for Mothers Raising Infants: A Pilot Study. Open Journal of Nursing. 10(8), 758-769.
12)Vera B: Morhenn, et al. (2008). Monetary sacrifice among strangers is mediated by endogenous oxytocin release after physical contact. Evolution and Human Behavior, 29 (6). 375-383.
13)Shinohara, et al. (2017). Effects of essential oil exposure on salivary estrogen concentration in perimenopausal women. Neuroendocrinology Letters, 37(8). 567-572.