腸内環境を良くする菌が感染症予防に有用である可能性

プロバイオティクス(酪酸菌や乳酸菌など腸内環境を良くする菌)が感染症予防に有用である可能性を示した。
サッカー元日本代表の鈴木啓太氏が社長を務めるバイオベンチャーのAuB(オーブ)(株)(東京都中央区)は、独自配合した約30種の菌を摂取した場合、免疫物質(IgA)の分泌量の低下を抑制するとともに、ヒトに有用な短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)を腸内で増やすことを、被験者15人の研究で確認した。
同社取締役・研究統括責任者の冨士川凛太郎氏は、「感染症に罹患しやすいのは免疫力が低下したタイミングであり、いかに免疫力を低下させないかが重要です。プロバイオティクス(酪酸菌や乳酸菌など腸内環境を良くする菌)の摂取による<免疫力の向上>を示した論文や報告はあるが、<免疫力の低下を抑制>した研究発表は珍しいと言えます。さらに、その免疫力の低下(変化率)と便中の酪酸量に相関があることを発見した報告もなされていません。
今回の研究では、アスリートの方々が約30種類のプロバイオティクスを摂取することで、短鎖脂肪酸が増えて、そのうち特に酪酸が免疫力低下の改善に影響したと考えられます。
つまり、プロバイオティクスが感染症予防に有用である可能性を示したと言えます。」と考察する。
同社はこれまで、750人以上のアスリートの健康的な腸内環境を解析。
その知見を基に、酪酸菌をメーンに乳酸菌やビフィズス菌など種類豊富な約30種の菌素材「アスリート・ビオ・ミックス(Athlete Bio Mix(R))」を開発している。
今回、被験者15人を対象に、この菌群を一定の期間摂取してもらった。
免疫物質IgA(免疫グロブリンA)の分泌量は運動後に低下するのが一般的だが、摂取後はその低下の程度が抑制されることが分かったという。
免疫力が低下すると感染症に罹患しやすくなるため、いかに免疫力を低下させないかが重要なポイントになる。
感染症予防の観点からも、同社菌素材が有効である可能性を示した。
さらに、今回の研究では、ヒトの健康維持に良い働きをする短鎖脂肪酸が便中で増加することも確認。
詳しく調べたところ、短鎖脂肪酸の中でも酪酸が、免疫力の低下抑制(抗体Ig Aの分泌量の低下抑制)に影響を及ぼしているという関係性を確認した。
同社は、本研究結果を、2021年12月1日(水)から3日(金)に開催された日本分子生物学会で発表。
今後も実証データを重ねることで、「アスリート・ビオ・ミックス」の有効性をさらに高め、同菌ミックスを素材として外部販売するビジネスを強化するとともに、さらなる自社商品の開発・販売に役立てていく考えだ。
<調査概要>
今回の調査は、鈴木氏の出身地、静岡のプロフットサルチーム「アグレミーナ浜松」の所属選手15人の協力を得て実施。
選手は、「アスリート・ビオ・ミックス」を主原料にしたサプリメントを、1日3粒、6週間(2021年4月15日-5月26日)毎日摂取した。
調査では摂取前と後(6週間後)の計2回、各選手の唾液を練習の前後に採取し、唾液中のタンパク質1ミリリットルにおけるIgAの量を調べた。
同じく便も採取しており、腸内細菌のDNAを解析して腸内細菌叢のバランスを分析し、さらに腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)の量を調べた。
検査日の練習時間とトレーニング内容は同じ。
<主な調査結果>
【1】 菌素材の摂取により、感染症予防に重要な抗体(IgA)の分泌量低下を抑制
一般的に、ハードな練習などで体を酷使し疲労が溜まると、感染症予防に重要な役割を担う抗体IgAの分泌量が低下し、感染症のリスクが高まると言われている。
今回、検査各日の練習前と練習後のIgAの平均数値を比較したところ、摂取前(0日目)は約26.1%も減少したのに対し、摂取後(6週後)は約9.0%減にとどまっており、低下の程度が抑制されるという結果を得た。
【2】 酪酸、酢酸などの短鎖脂肪酸が増加
また、便中の主な「短鎖脂肪酸」(酪酸・酢酸・プロピオン酸)の摂取後(6週間後)の量は、一人当たり平均、約1.2倍に増加することを確認した。
「短鎖脂肪酸」は、腸の粘膜のエネルギーとなり、腸管のバリア機能を高め、病原体の侵入を防ぐなど、健康にとってよい働きをすることで知られている。
約 30 種の多様な菌を独自配合した素材「アスリート・ビオ・ミックス」
AuB は 2015 年 10 月創業の、アスリートの腸内細菌を研究する企業。
代表取締役の鈴木啓太は、サッカーJ リーグチームである浦和レッドダイヤモンズのプロ選手(2000.1-2016.1)で、日本代表(A 代表)でも活躍した、元トップアスリート。
日ごろから運動と食事に気を遣うアスリートの健康的な腸に棲む菌の種類や割合の傾向を研究してきた。
創業からこれまでに、サッカーやラグビー、陸上など、33 種目、750 人(1700 検体)以上のアスリートの腸内環境を解析しており、ヒトの腸内の健康度合いは、「酪酸菌の多さ」と「菌の多様性(種類の豊富さ)」が重要な役割を果たすことなどを確認している。
その知見を生かして、免疫力の観点で今注目の酪酸菌をメーンに、乳酸菌やビフィズス菌など約 30 種類の菌を配合した独自素材「Athlete Bio Mix (R)(アスリート・ビオ・ミックス)」を 2019 年 12 月に開発した。