禅に学ぶ 真の心の強さとは 心を磨きスッピンにする

「強い心を持つにはどうしたらよいですか?」そんな質問をいただくことがありますが、そもそも「心」とはどういうものなのでしょうか。
メンタルケアの第6回は、「心」について曹洞宗の僧侶 宇野全智先生が禅宗の考え方を教えてくださいます。
前回は、「自己を高め、目的を達成するために必要なこと」というテーマで、禅僧の修行生活を紹介し、「自分の身体を調え、心を成長させていくこと」が、目標を達成するために大切なのだという事をお話ししました。
「身体を調える」ことをメインにお話ししましたので、今回は「こころ」について考えます。
「心を鍛える」「心を磨く」「心を落ち着ける」「心を清らかに」など、「こころ」を使った文脈はたくさんありますが、そのこころの正体とは何なのでしょう。
「こころ」の本来の姿
禅を含む仏教の基本的な考え方に「本性清浄」(ほんしょうしょうじょう)という概念があります。これは簡単に訳すと「心は本来、清らかなものである」という意味で、仏教の根本的な立ち位置は「性善説」であると言えます。
つまり、私たちは生まれながらにして清らかで尊い心根を、誰もが持っているのだという事です。
イメージしやすいところでいうと、小さな子供の笑顔。
そういう純真無垢で清らかな心を、本来誰もが持っていると考えるのです。
そして、この清浄な心が失われることは決してありません。
こころは汚れていくものでもある
しかし、私たちが成長するに従い、また世俗の社会生活の中に身を置き続ける中で、この純粋な心も次第に汚れを纏うようになります。
この心を汚すものの事を「煩悩」(ぼんのう)と言います。
そして煩悩の最も基本的な姿は「むさぼり」「いかり」「おろかさ」の3つです。
第1の「むさぼり」とは、他人を押しのけてでも、自分だけが得をすれば良いと考えてしまう心。
食べ物や飲み物だけではなく、時間や空間、他人からの評価など、自分が心地よいと感じることを一人占めしようというあさましい心を指します。
練習時間や練習場所を誰よりも優先して使いたいとか、ライバルの失敗を心の中で喜んでしまう、などというのも、このむさぼりの心に含まれるでしょう。
第2の「いかり」とは、自分の欲望が思い通りにかなわない事に感情的になり、他人や自分を激しく攻撃する感情を持つことです。
うまく結果が出なかった時に、それを冷静に受け止めることをせずに、怒りに我を忘れて行動してしまう。
結果、言ってはいけない事を言ってしまったり、やってはいけない事をやってしまったりして、後で後悔する羽目になるという事は、多かれ少なかれ誰にでもあるはずです。
第3の「おろかさ」とは、物事の道理を自分の都合のいいようにねじ曲げて解釈する心のことです。
例えば、今日やらなくてはならないと分かっていることを、あれこれ言い訳をして先延ばししたり、食べてはいけない、飲んではいけないと分かっているものを「今日は○○だから」などと都合よく解釈して食べてしまうなど、これも身に覚えがあるのではないでしょうか。
この「むさぼり」「いかり」「おろかさ」は、万人に共通の煩悩で、生きている限り生み続けてしまうものです。
そしてこれらの煩悩が「悪いクセ」となって、心を汚していってしまうのです。
私たちの日常は、「クセ」の連鎖で出来上がっている。
毎日の生活で心に積もる煩悩の汚れ、これは次第に行動を支配するようになります。
ですから、心を調えていくことは、日常の行いを点検することから始まります。
そして行いとは、禅では「行為」「言葉」「思い」に集約されます。
つまりは、「やった行為」「言った言葉」「巡らせた思い」の3つの行為がそれぞれ「むさぼり「いかり」「おろかさ」に影響されていないかを確認することが大切なのです。
「むさぼり」などの煩悩は、繰り返すうちに習慣(クセ)となって頑固に染みつき、行動を変えていってしまいます。この悪循環をまずは断ち切る事、それは「心を磨き、真に強い心を得る」ことにつながります。
大切な事は、清らかな心が自分の奥底にあるのだという事を信じること。
そして、これを覆い隠している煩悩のかたい殻のような汚れを掃除して、柔軟でのびのびとした「本来の心」が現われるよう調えていく事です。
煩悩の汚れが溜まると、途端に心は硬直化し、もろくなります。
心を柔軟に保つことが、強い心作りの第一歩です。
それは例えば大きな橋が、しなやかに揺れることで折れずにあるように、大きなビルが揺れることによって倒れないように、しなやかな心を保つことこそが、真の心の強さにつながります。
そのためには、煩悩の殻に覆われることのないように、心を磨き続ける事が重要なのです。
心は、すっぴんが一番キレイ。
強さは、しなやかさと、柔軟さから生まれる。
こんなイメージを持ってください。
<イベント開催のお知らせ>
禅僧の修行を都心のホールで再現する法要ライブ
「法悦2016-禅と祈り―」
出演するのは曹洞宗大本山總持寺の現役の修行僧約40名
彼らの多くは、大学を卒業後すぐに修行の道へと飛び込んだ若者たちです。
スポーツと禅、目指す道は違っても、自己を高め、道を成し遂げようと思う心は一緒です。
同年代の禅僧が真剣に修行に取り組む様子に、是非触れてみて下さい。
公式サイト
www.sotozen-net.or.jp/houetsu/
facebook
www.facebook.com/houetsu/
日時:2016年6月4日(土) 開場16:30,開演17:00(内容90分)
場所:浅草橋ヒューリックホール
料金:3500円
主催:曹洞宗総合研究センター
<講師紹介>
宇野全智(うの・ぜんち)
曹洞宗総合研究センター専任研究員。山形県大石田町地福寺副住職。
1973年山形県生まれ。山形大学理学部生物学科卒業後、曹洞宗の僧侶養成機関で3年間、布教活動の実際を学ぶ。その後、福井県の大本山永平寺にて1年間修行。以後、曹洞宗の研究機関で仏教や禅の教えをわかりやすく伝え、また生活に役立ててもらえるようにするための冊子編集、研修会の運営などに携わる。