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成育医療センター 第2回プレコンセプションケア・オープンセミナー

自分の未来の選択肢を守る「プレコンセプションケア」

ヘルスケア 2017/06/30

「プロの競技者として勝負を優先したいという気持ちと、女性としての健康な体を持ちたいというジレンマがあります」自転車ロードレース女子日本代表の與那嶺恵理選手は、女性アスリートが抱える課題について発信していきたいと話します。
第2回プレコンセプションケア・オープンセミナー「スポーツ女子が知っておきたいヘルスケア」が6月27日、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)で開催されました。

 

「プレコンセプションケア」とはあまり耳慣れないかもしれませんが、コンセプションとは妊娠すること。つまり、プレコンセプションケアとは妊娠できる体を作るということになります。
今は出産を考えていなくても、将来、子供を産みたいと思った時のために、体の管理をしておくことが大切です。

今回のセミナーでは「スポーツ女子」という観点で、産婦人科医師、女性アスリート、アスレチックトレーナー、スポーツ女子が登壇し、それぞれの立場から話をしました。2回に渡ってご紹介したいと思います。

 

RanRunでは、これまで「女性アスリートの三主徴」「ライフイベントと体のこと」などセミナーに参加してはご紹介をしてきました。スポーツと月経の関係について、正しい情報を持ち、スポーツ女子同士がお互いの健康について話しやすい環境を作っていきたいですね。

 

佐藤雄一医師

順天堂大学で女性アスリート外来の担当をされている佐藤雄一医師が「スポーツ女子が知っておきたいヘルスケア」と題して話をされました。

現在の日本の産婦人科的背景と問題点のひとつに、結婚初産年齢の高齢化による「流早産の増加」「子宮内胎児発育遅延」「ハイリスク妊娠出産の増加」「やせ・体力低下に伴う難産・帝王切開の増加」を挙げています。

この中で、「やせ・体力低下」は食事と運動習慣で改善することができます。
この運動習慣ですが、アメリカとデンマークの研究チームにより「穏やかな運動は妊娠する力を高めるが、激しい運動の時間が長くなると妊娠するまでに時間がかかるようになる」という結果が発表されています。

穏やかな運動の例としては、ウォーキング・サイクリング・ゴルフ・ガーデニングなど、激しい運動の例としては、ランニング・エアロビクス・水泳などが当てはまるそうです。
スポーツ女子の皆さんは、卒業後は競技から離れる人も多いですが、スポーツに親しむ習慣は保ち体力低下を防ぎたいですね。

 

BMIという言葉をご存知だと思います。体格を表す指数で、体重÷身長の二乗で算出します。
国民健康栄養調査ではBMI18.5未満を「やせ型」としていますが、ハーバード大学の研究では妊娠適正BMIは20~24、BMIが19以下だと妊娠までの期間が4倍になると報告されているそうです。

 

またBMIと共に意識したいのが体脂肪率です。
佐藤医師によると女性の目指したい体型は、BMI19~25、体脂肪率19~28%になります。

体重制限などで減量をしている選手は、BMIも体脂肪率もこの数値よりかなり低い場合があります。競技で勝つためには仕方のないことですが、リスクがあることも知っておく必要があります。

また日本代表クラスのアスリートになると、体重があっても体脂肪率が低い選手もいます。競技を引退後は脂肪もついてきて健康になる人もいるとのお話でした。

「やせ過ぎ」妊婦のリスク
日本の20代女性は推奨エネルギー摂取量に達していない人の割合が高い、つまりやせ過ぎの女性が多い状況にあります。やせ過ぎの妊婦が増え、体重の少ない赤ちゃん(低出生体重児)が増えたといいます。

低出生体重児は、小児生活習慣病に罹るリスクが高くなります。
将来の子供の健康を守るために、自分の健康を意識することも大切になります。

 

女性アスリートと月経異常
体操・新体操・フィギュアスケートなどの審美系競技や陸上長距離など減量を伴う競技では、無月経になる選手が多く選手生命の短縮にもつながってしまいます。

体重を増やせば月経は来るのですが、10代で無月経の状態が続くと骨粗鬆症のリスクが高くなる可能性があります。女性の最大骨量獲得の時期は18歳頃ですが、10代で無月経による低エストロゲン状態が続いてしまうと、この最大骨量の獲得ができなくなり、骨折のリスクが高まってしまうのです。
無月経の状態を長く続けないよう、コントロールすることを知っておく必要があります。

 

女性アスリートのジレンマ
リオ五輪に出場した自転車ロードレース女子日本代表の與那嶺恵理選手は、6月23~25日に青森県で開催された第86回全日本自転車競技選手権大会ロード・レースで見事優勝、その様子を動画で報告してくれました。

與那嶺選手は上り坂を得意とする選手で、体重も自転車も軽い方がベストを出せるためレースに合わせて体重をコントロールしているといいます。

今回のロードレースは112kmの距離を3時間17分で走行、1日のレースでは約2000キロカロリーのエネルギーを消費します。

 

ベストコンディションは体重50kgという與那嶺選手は、シーズン前55kgの体重を6月の全日本選手権に照準を合わせ、トレーニングとレースを組み合わせて5kg落としていくのだそうです。

この体重50kgと55kgは、與那嶺選手にとって競技のコンディションとは別に、違う意味を持っています。55kgの時は正常な月経が、シーズンが始まると止まってしまうのです。

「選手として勝つことを優先していますが、引退後は子供が欲しいという気持ちもあり、ジレンマを抱えて競技と向き合っています」と本音を語ってくれました。

 

ロードレースについてはプロであっても、体に関してのプロではないので、専門の医師に相談しながらコンディションを作っているそうです。

 

現在フランスのチームに所属しプロ選手として活躍する與那嶺選手ですが、フランスの選手は筋肉がつきやすい体質で体重コントロールをしなくてもよいようだと言い、日本人選手との違いに触れていました。

 

與那嶺選手が自転車競技を始めたのは大学生になってから。大学2年までテニスをやっていた與那嶺選手は、自転車に転向当初に体重を一気に10kg落としたところ、体調は悪くないのに月経が2年止まってしまったそうです。ある日突然、また生理が来ると面倒くさいと感じてしまうこともありましたが、月経不順になったことで体のことを考えるようになり、コーチに相談したところ、専門の医師に相談することを勧められたと言います。

理解ある指導者の存在は大きかったと振り返っていました。

 

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