早大女子軟式野球 1か月後自分が活躍しているイメージを持て

泥だらけになって白球を追いかけている女子がいる。「そっち行くよ―!」都立公園の野球場から甲高い声が響く。8月26日に開幕する全日本大学女子野球選手権大会(富山県魚津市)に向けて練習に励む早稲田大学女子軟式野球サークルWASEBIキャプテン 唐川貴帆さん(スポーツ科学部4年)に、野球の魅力やチームマネジメント、就活について、大会に向けた意気込みを聞いた。
WASEBIは早稲田大学唯一の女子軟式野球サークルで、今年結成21年目を迎える。部員は22人。ほとんどが初心者だ。週3回、平日は午前9時~11時、土曜日や夏休みは4時間の練習に東京都のスポーツ施設を借りる。野球といえば攻守どちらの練習も走り込みが基礎。この日も泥だらけになって外野を中心に守備の練習をしていた。
野球の魅力
WASEBIの魅力について「女子大生が泥だらけになってスポーツできること」と唐川さん。勝利に向けて本気でスポーツに打ち込んでいるが、サークルなので遊びの要素も忘れてはいない。グランドの外では上下関係なく楽しく活動しているところかなと笑顔で答える。
小さいころから高校野球をテレビ観戦する家庭環境で育った唐川さん、自身も甲子園に出たいという思いが芽生えていた。中学ではソフトボールをやり、高校では野球部のマネージャーを経験した。マネージャーの仕事も色々あるが、唐川さんは主にチームのデータ管理を担当し、部員全体の動きを見ていた。野球部の甲子園出場はならなかったものの、仲間もできていい3年間だった。結果を出せなかった悔しさをリベンジしたいという思いから、大学の野球部では選手として全国制覇を目指す。
現在、サードを守る唐川さん。サードの魅力について「速いボールが来ることが楽しい」と表現する。
野球の試合は、何が起きるかわからない。何点差でも逆転できることが魅力のひとつだ。野球には頭を使ったファインプレーの楽しさがあると唐川さん。「頭で勝つ」がWASEBIの方針になっている。雨天で練習ができない時は、大学の施設を借りて野球教室を開き、後輩たちにワンランク上のプレーを教える。
全国制覇を果たすには、体育大に勝つことが課題。パワー野球の体育大に対し、考える野球で勝つための作戦を練っているそうだ。
戦略や技術を磨くために、高校野球の試合を観に行き、ランナーの動きを研究することも。中学生のクラブチームとの練習試合では、スイングのフォームなど勉強になることも多い。
キャプテンの役割
WASEBIの4年生は現在、唐川さんを含め3人。学年で1人になった時期もあった。4年間続けてこられた理由を尋ねると、「とにかく練習が楽しいし、野球が好きだから」と満面の笑みを浮かべる。1人になった時は先輩が気遣ってくれた。根っからの負けず嫌いと自己分析する唐川さん、途中で辞めることだけはしたくなかったと振り返る。
唐川さんが下級生だった頃のWASEBIは、厳しいカリスマ監督の元、体育会よりもハードな練習をするサークルだった。世代が代わるとそれが当たり前ではなくなり、チームはバラバラになってしまった。監督が辞めてしまい、唐川さんはキャプテンと監督を引き受けることになる。一月後の秋リーグに向けチームの立て直しが急務だった。
下級生の時は自分が上手くなることに集中していればよかったが、上級生しかもキャプテンともなれば、そうはいかない。チームの空気作り、ひとりひとりの技術面のサポートも必要だ。自分のプレーに集中できない分、自分の視野の狭さに気づき、成長することができたと言う。
秋リーグでは、もう負けられないという状況まで追い込まれたが、そこから勝ち続けプレーオフを勝ち切り、優勝することができた。
就活を終えて
就活を終えたばかりの唐川さんは、やはり野球がアピールポイントだった。チームを立て直すために、下級生を盛り上げることに気づき、勝ちにつなげていった経緯を語った。以前のチームなら厳しい言葉を掛ける場面でも、野次ってあげることでサポートする。全員ミーティングを開き、チームの意識を共有する。チームのLINEを使って、全員が試合に対する意気込みを書き込んだり、試合直前のアップでは部員が一発芸をやったりと、チームの意識がひとつにまとまるような工夫をしてきた。
自身は、前の厳しい監督にメンタルをやられるノックに、泣かずに喰らいついていったことで、根性やナニクソ精神が身についたという。面接で厳しい質問をされたとしても、全く平気だった。
本気でスポーツに打ち込んだ経験は、何に対しても役に立つと唐川さんは言う。1回でも本気で何かに打ち込んだことがある人と、そうでない人との違いをグループ面接で感じたそうで、それを表現するのに「精悍さ」という言葉を使った。
そんな唐川さんが社会人として活躍するフィールドに選んだのは、和服関係の企業だ。
女だからという理由で甲子園に出られない野球社会に対し、「女だからって舐めるな」という思いがある。「みんなが女に生まれてよかったと思える仕事をしたい」就職活動を始めた時、「女性の夢を叶え、生き方を応援する」自分が描くイメージにマッチする企業に出会った。
祖母が和裁師ということもあり、もともと和服に関心が高く、「着物学」の授業も取っていたという唐川さん。和服を着た時に、背筋が伸びる感覚を多くの人に知ってほしいそうだ。
生粋のヅカファン
オフの日は、宝塚歌劇団が大好きで、多いときは週1回のペースで観劇に通うこともあるという。そんな時は1,500円の立見席で観劇する。WASEBIのメンバーを誘うこともあるのだとか。
演目が和物の時は、和服を着て観劇に行くほどの力の入れよう。
モチベーションを上げる曲を尋ねると、宝塚のDVDを観ることと教えてくれた。
朝からDVDを観ながら素振りをしているという生粋のヅカファンだ。
全国大会に向けて
8月26日から開幕する全国大会の目標は「打倒体育大」、ベスト4入りを目指す。
新しい監督を迎え、練習メニューを組んでもらい、課題をサポートしてもらっている。
メンバーには「自分が活躍しているイメージを持っておけ!」と声をかけるという唐川さん。下級生はレギュラーで活躍するイメージを持ちにくいので、モチベーションを保つのが難しい。コーチャー、スコアラー、ベンチワークなど、試合に出なくても活躍できることを教えている。
「全員の気持ちを同じ方向に向けることが目標です」とインタビューを締めた。
早稲田大学女子軟式野球部WASEBI
http://wasebi.web.fc2.com/index.html
RanRun yukiyanagi