早大女子ボクサー 誰よりもストイックな根性がヤバイ!

「ボクシングは騙し合いのスポーツ」
早稲田大学体育館のボクシング場で男子部員に混じって1人ボクシングの練習に励む女子がいる。主務に「誰よりもストイック」と言わせてしまう富山美桜(とみやま・みお)さん(早稲田大学社会科学部2年)に、ボクシングの魅力、ライフスタイル、将来の目標など話を聞いた。
ボクシングとの出会い
早稲田大学の付属高校時代は、ESS(英会話サークル)で活動していた富山さん。大学入学後、友達の誘いで、格闘技系のサークルを見学に行った。その時、試合を控えたボクシング部の人たちが練習のためにボクシング場に入ってきた。その中に1人女子選手の姿があった。これが富山さんとボクシングの出会いとなる。ロンドン五輪から女子ボクシングもオリンピック競技になり、五輪出場も夢じゃないという話に、自分もやってみようとボクシング部への入部を決めたという。
いざ、入部してみると女子が1人いるとはいえ、練習は男子と一緒。初めは怖かったそうだ。練習は月曜日を除いた週6日。授業がある時は、夕方16時40分から約2時間練習をする。先輩から技術を教えてもらうが、技術を覚えたらまた基本に戻るというスタンスで技を磨く。
ボクシングを始めて根性がついた。きつくても、まだ限界じゃないと思えるようになったそうだ。以前は30%あった体脂肪も12.5%まで減った。
文科系女子だった富山さんがボクシングを始めたことに対し、周囲の反応はどうだったか尋ねると「両親が一番呆れていました」と苦笑い。実は、両親に報告したのは入部して2週間後だった。人と変わったことをするのが好きな娘に、「またか」というリアクションだったそうだ。
富山さん自身の性格を自己分析してもらうと、付属高校時代の仲間達には「喧嘩っ早い」「血の気が多い」と言われ、親には「気が強い」と言われるそうで、打たれながらも打ちに行く気持ちの強さはボクシングに向いていたのかもしれないと話す。
ボクシングの魅力
アマチュアボクシングのことを何も知らずに飛び込んだボクシング。富山さんの入部のきっかけとなった先輩女子は、怪我のためにボクシング部をやめてしまった。それでも女子1人、頑張り続けるボクシングの魅力を「やたら奥が深い」と表現する。「スタミナだけでも勝てない。テクニックだけでも勝てない。気が強いだけでも勝てない」と言い、「ボクシングは騙し合いのスポーツと言われています」と教えてくれた。
富山さんは、連打を得意とする。「スタミナはある方なので」という言葉が何度となく出てくる。しかし、男子の強い先輩との練習の日々、パンチ力が強く怖いと感じることもある。テクニックもまだまだ自分は劣っていると気づかされる。
格上の相手とスパーリングをやってパンチされた時は悔しさを感じる。何回やっても実力で勝てないことが悔しくて、誰もいないところで悔しさを発散する。
今までで一番嬉しかったことは、「減量を乗り越えて出場した試合で、TKOで勝った瞬間は最高だった!」と笑顔を見せた。
減量の辛さ
実は、取材した日も次の試合に向けて減量中だった。女子は体重が落ちにくいと言われているため、試合の4週間前から意識し始め、3週間前から本格的に減量を始める。カロリーを気にしながら、キノコ・海藻・サラダ・タンパク質(鶏肉やサバ缶などで摂取)などの食事に切り替える。大豆製品など決められたグラム数の中で摂取する。1週間前からは、軽さでものを食べるように、ナッツやチョコレートなどを食べ、水分を抜いていくのだそうだ。
初めの頃は、食べられないことが悲しかったという。それを乗り越えたら、気持ちの波もわかるようになった。
減量中で飯が食べられない時はサプリメントで補うために、アミノ酸の種類を覚えるなど自分から取り組む。そんな姿を見ているからこそ、主務が部内で一番のストイックな選手と称するのだ。
「同期のフィジカルトレーナーが毎日、顔を見て気にかけてくれているから」と富山さんは、周囲のサポートがあっての「今の自分」を忘れない。自身のトレーナーをしてくれているOB会長が、プロとのスパーリングを斡旋してくれている。
メンタルトレーニングの方法は?
軍隊ものの映画を観ることと笑い、最近観たのは『G.I.ジェーン』だそうだ。
なによりも、自分の上の人たちが頑張っている姿を見ることで、「自分が苦しんでいることは、あの人たちに比べれば屁でもないこと」と思うと頑張れると話してくれた。
ライフスタイル
夏休み中で減量中のこの期間、アミノ酸を摂り、集中力を上げるためのコーヒーを飲み、朝練をする。練習後は、走りに行ったりサウナに入ったり、整体やアロママッサージを受けたりと、ボクシングのための体作りをしている。
本屋を漁るのも好きで、ビジネス書をよく読んでいる。付属高校からの仲間には、学生のうちから起業している人もいる。富山さんもビジネスに興味があるので、起業することにも関心があるようだ。
「女性はキャリアの構築が大事。特に20代前半が大事だと思うので、卒業後のことも考えないと」と話す。
練習が終わってお風呂で汗を流せば、毎日、お化粧もする。ストリート系やカジュアルな服が多いが、ユルフワな服もたまに着る普通の女子学生だ。
今後の目標
直近の目標は、12月に行われる全日本選手権大会でどこまでいけるかチャレンジすることだ。五輪出場を狙っている人もいる中で、自分は大学から始めたばかり。結果を出せれば、世界選手権や全日本合宿なども見えてくる。1部・2部リーグの大学の女子選手は、男子と練習している人が多いので、気が抜けない。
新入生への勧誘の言葉を尋ねると、「女子で辞めていった人も何人も見てきました。安易には勧められない」と返ってきた。
取材 國保小枝 益永美希