KOTARO NUKAGA Three(旧KOTARO NUKAGA 天王洲)が7月20︎日(土︎)から9︎月7︎日(土)、井上七海の個展「魚は水を知らない」を開催。
・直線を反復して描くことによって方眼紙のようなイメージを描き出すシリーズ「スフ」、刺繍の線が紙の表面・裏面を行き来する「表と裏のためのドローイング」と併せ、新作のビーズによるドローイング「Rim」を展示。
・代表作である「スフ」シリーズからは、これまでで最大サイズとなる約縦3×横2mの作品を発表。
本展は、2022年に大好評で幕を閉じた「Maybe so, maybe not」以来、井上のKOTARO NUKAGAにおける待望の二度目の個展です。
井上は「普遍性は移ろいやすく断片的なものである」という考え方を背景に「何でもないけれど、何かであるものを描く」という絵画作品へ向き合い、考えを巡らせます。
鑑賞者は井上の作品が何であるのか考えることで、絵画の枠組みを超えた世界へと誘われます。
代表作の「スフ」シリーズにおいて、井上は「線をひく」という絵画における根源的な行為の反復によって方眼のような「図」を描きますが、その「図」は本来は何かがその上に描かれる「地」でもあります。つまり「図」と「地」の反転というパラドックスを生み出し、”何も描かない絵画を成立させる”という問いを鮮やかに解いてみせました。
井上は、本展「魚は水を知らない」にてさらに絵画に対する思考を深め、進展させてみせます。
方眼紙のような直線を描いた「スフ」シリーズ、1cmの等間隔な刺繍の線を引くという行為によって出来上がる「表と裏のためのドローイング」という作品を経て、今回新たに井上が挑んだのは「曲線を描く」ことです。新作のシリーズ「Rim」ではキャンバスにビーズを縫い付けるという反復行為によって、曲線を描いてみせます。
針の先で、1mmほどのビーズをテーブルに置かれたケースからひとつ掬い上げ、キャンバスの表面に縫い付ける。裏面から針を刺し、再び針の先でビーズを掬い上げ、キャンバスの…
一連の行為を「身体が覚える」と井上自身が言うように、「Rim」を制作するその姿は、描き出す絵画を何物かに変えようとする画家の身振りとは対称的に、アーティストという人間でありながら、どこか機械的に安定したようにも見えます。また、それは自然世界における繰り返される営みのようにも見えます。
「何を描くかではなく、どう描くか」ということに焦点をあてた井上の作品は、身体にどのように制作を進行するのかということを覚え込ませることで、「何かを描こう」という作家の主観を極限まで削ぎ落とすことになります。
それは、芸術が芸術たらしめる境界を無視しているようにも見え、その一方で、必然的にこのような区別を超越した意味を示していきます。
描き出された絵画は、作家の主観によって描かれた「何か」。つまり「〇〇」を象徴する絵画ではなく、線そのものであり、絵画そのものとなります。
キャンバスに、ぐるりと曲線を描き、縫い付けられたビーズは、厚みのあるフレームに取り付けられることで、絵画平面の枠組みを軽々と乗り越えて行き、「移ろいやすい、普遍性」の中をわたしたちが泳ぎ回っているのだということを鮮やかに示しています。
本展のタイトル、「魚は水を知らない」の「魚」はアーティスト自身とも、鑑賞者自身とも、読み取れるのかもしれません。
深淵なる、井上の絵画の世界を、この機会ご覧になってみませんか。
【開催概要】
井上七海「魚は水を知らない」
会期: 2024年7月20日(土) – 9月7日(土)
開廊時間: 11:00 – 18:00 (火-土)
※日月祝休廊
※8月11日(日) – 8月19日(月)夏季休廊
会場: ※名称が変更となっておりますのでご注意ください
KOTARO NUKAGA Three (旧KOTARO NUKAGA 天王洲)
〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex I 3F
井上七海|Nanami Inoue
1996年 愛知県生まれ
2019年 名古屋芸術大学美術学部美術学科洋画2コース 卒業
2021年 京都芸術大学大学院修士課程美術工芸領域油画分野 修了
現在は、愛知県を拠点に活動
「線を引く」という単一行為の反復によって「何かを描く」というイメージの呪縛から絵画を解放させることを試みる。機械的にも見える身体的な反復は精度を増すほど機械との違いを絵画のイメージ内に痕跡として残す。意図せずに生まれるその差異はデジタル化が進む世界の中にあって「0」から「1」を生み出すことを求められる時代に、「0」と「1」との間には「無限」があることを気づかせてくれる。