2020にみる障がい者スポーツ競技団体の課題と展望

東京2020で開催されるスポーツのビッグイベントでは、新たに追加種目となった競技などもメディアで取り上げられる機会が増え、それまで馴染みのなかったスポーツに取り組むようになった人も多いのではないでしょうか。
このスポーツへの関心の高まりを一時的なものにせず、さらに発展させていくことが課題として懸念されています。
公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団が2020年2月2日、「障がい者スポーツ競技団体の課題と展望について」と題し御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターでシンポジウムを開催しました。
基調報告で登壇した小渕和也氏は、パラリンピック競技団体とパラリンピック競技以外の団体を比較し、2018年度調査報告および課題報告を行いました。
違いが顕著だったのは、専門職員の雇用についてです。
パラリンピック競技団体では専門職員を雇用している団体が9割に対し、パラリンピック競技以外の団体で専門職員を雇用しているのは約2割という結果。
事務局の設置についても、専用の事務局を設置している団体が85.2%のパラリンピック競技団体に対し、パラリンピック競技以外の団体では、事務局を団体役員の自宅に併設している団体が過半数という結果に。
しかし競技登録者数でみると、パラリンピック競技団体では総計4,406人に対し、パラリンピック競技以外の団体の登録者数は総計65,928人になります。
2021年4月以降の団体運営について、ほとんどのパラリンピック競技団体が「縮小」を考え、人員配置は「削減」する方向なのに対し、パラリンピック競技以外の団体では運営を「拡大」し、人員を「増員」する方向を示しています。
パラリンピック競技団体は2020年をピークと考え、パラリンピック競技以外の団体は2020年を飛躍のきっかけと考えているという報告でした。
なぜ、このような結果が出るのでしょうか。
障がい者スポーツ競技団体関係者によるパネルディスカッションから見えてくるものがありました。
パラリンピック競技は、ナショナルトレーニングセンターの利用が可能で競技練習には恵まれた環境にあります。
イベントが自国開催となったことで周囲の関心も高まり、若い選手層も増え、協賛企業も増えました。
櫻井誠一氏は、今はイベント中心の活動に追われ、パラバブル状態にあると言います。
パラリンピック競技団体は、助成金と企業からの協賛金を主な収入として、組織運営や選手の競技力向上を図っています。
業務量も経費も増える一方で、協賛企業の窓口はオリパラ関係の部署が多く、イベントが終われば協賛も終わるというのが通例。
イベント終了後のことを検討する余裕はなく、真のレガシーについてなにもできていない状況のようです。
地域で選手を育てる仕組み作り、指導者の養成、ボランティアの養成などが、2020東京大会のレガシーとして期待されるところです。
小松眞一氏は、障がい者も健常者も一緒になってできるスポーツとして、車いすフェンシングを広めていきたいと話します。
一緒にやることでコミュニケーションが生まれ、お互いを知り、ダイバーシティが自然にできあがるのではないでしょうか。
パラリンピック競技以外の団体として話をしたアンプティサッカー協会の杉野正幸氏。
アンプティサッカーの迫力ある映像を流し、競技の魅力を紹介しました。
協賛企業も増えてきており、2021年2月に日本で国際試合を誘致する予定です。
中森邦男氏は、日本の障がい者スポーツは、小さい団体が多いがやりたくてやっている団体ばかりだと話します。
「やりたくてやっている」それがパラリンピック競技以外の団体が持つ「強み」のように思えました。
オリパライヤーの2020年、その時だけの盛り上がりを楽しむイベントにはせず、その日のために努力を続ける選手に敬意を持ち、「レガシー」「SDGs」「ダイバーシティ」といった社会的課題を意識しながら、「スポーツの持つ力」で日本がよりよい社会に変わるきっかけにしたいですね。
<登壇者>
小淵和也氏 | 公益財団法人笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター |
小松眞一氏 |
NPO法人日本車いすフェンシング協会 理事長 |
櫻井誠一氏 |
一般社団法人日本障がい者水泳連盟 常務理事・技術委員長 日本パラリンピック委員会 副委員長 |
杉野正幸氏 | 特定非営利活動法人日本アンプティサッカー協会 副理事長 |
中森邦男氏 |
公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会 参事 |
取材 Yuki Yanagi