一歩先のヒント

グローバル・ラグジュアリーブランドとともに学ぶファッション教育

― イタリア「イスティトゥート・マランゴーニ」に見る産業直結型カリキュラム

ファッション教育は「産業理解」へと進化している

ファッションを学ぶことは、単にデザイン技術を身につけることだけを意味するものではありません。
ブランド戦略、マーケティング、リテール、テクノロジー、そしてグローバル市場の構造までを横断的に理解し、実社会と接続できる人材が求められています。

1935年にミラノで設立されたイスティトゥート・マランゴーニ(Istituto Marangoni)は、「ファッション業界に最も近い学校(The School Closest to the Fashion Industry)」という明確な哲学のもと、産業と教育を直結させた独自のカリキュラムを築いてきました。
現在では、世界で最も影響力のあるファッションスクールのひとつとして知られています。

ラグジュアリーブランドと直結する産業中心型カリキュラム

マランゴーニの最大の特徴は、ルイ・ヴィトン、グッチ、ヴェルサーチ、ゼニア(Zegna)など、グローバル・ラグジュアリーブランドとの直接的な連携にあります。
学生は、教室内で理論を学ぶだけでなく、実際のブランドと協働しながらプロジェクトを進めます。
コンセプト開発、デザインの具現化、コミュニケーション戦略、マーケティングキャンペーンの企画に至るまで、クリエイティブとビジネスを横断する実務型課題に取り組むことで、実践力とプロフェッショナルマインドを体系的に身につけていきます。
こうした没入型の学びを通じて、学生はファッションを「学ぶ」だけではなく、産業として体験していきます。

AI・VRからホスピタリティまで広がる学習領域

マランゴーニの教育プログラムは、現代ファッション産業を取り巻くエコシステム全体をカバーしています。
AIやVRを活用したファッションマーケティング、ラグジュアリー香水やビューティーブランドの企画、さらにはファッション・インテリア・ホスピタリティが融合する領域まで、学びの射程は極めて広く、
すべての専攻に共通するのは、実社会の動きを忠実に反映したプロジェクトベースの教育が中核に据えられている点にあります。

フェラガモと連動する実務プロジェクトの現場

産業直結型教育の最新事例として、イスティトゥート・マランゴーニ パリ校では、イタリアを代表するラグジュアリーメゾン**フェラガモ(Ferragamo)**との協業プロジェクトを実施しました。
本プロジェクトは「Fashion Buying & Merchandising」修士課程と連動し、学生が実際のラグジュアリーリテール環境とブランド戦略を体感できるよう設計されています。
学生は、パリ・アヴェニュー・モンテーニュ45番地にあるフェラガモ旗艦ブティックを訪問し、ストアマネージャーとの対話を通じて、ブランドアイデンティティや市場戦略への理解を深めました。

その後、店舗分析を起点に、若年層獲得に向けた市場ポジショニング、マーチャンダイジング、顧客体験、ビジュアルマーチャンダイジング戦略を総合的に提案する実務プロジェクトに取り組みます。

世界主要都市を結ぶグローバルキャンパスネットワーク

マランゴーニは、ミラノ、フィレンツェ、パリ、ロンドンをはじめ、ドバイ、上海、深圳、ムンバイ、マイアミ、リヤドなど、世界の主要ファッション・デザイン都市にキャンパスを展開しています。
学生は都市間を移動しながらキャンパス横断型プロジェクトに参加し、多様な市場や文化の中で学ぶことで、ラグジュアリー・ファッション産業に不可欠な国際的視野を自然に身につけていきます。

ミラノ新キャンパスが象徴する「産業と教育の融合」

グローバルネットワークの中心に位置するのが、ミラノキャンパスです。
近年、マランゴーニはミラノ中心部の象徴的建築物**パラッツォ・トゥラーティ(Palazzo Turati)**へキャンパスを移転しました。

総面積約9,000㎡の新キャンパスには、ドローイング・パターン制作室、デザインラボ、業界標準ソフトを備えたITスイート、プロ仕様のフォトスタジオなど、実際のファッション産業と同等レベルの設備が整えられています。
学生はアイデア構想からビジュアルコミュニケーションまでをより現実的な環境で体験し、 教育と産業の境界を実質的に越えた学びを実現しています。

業界第一線のプロフェッショナルが教壇に立つ

マランゴーニの教員陣は、現在もファッションおよびラグジュアリー業界の第一線で活躍する現役プロフェッショナルで構成されています。
ゼニア(Zegna)のアーティスティック・ディレクターを務める**アレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)**は、その象徴的存在です。
学生は経営層やクリエイティブディレクターから直接指導を受け、技術力に加えて、ブランドの言語や市場構造、創造性とビジネスを結びつける戦略的思考を身につけていきます。

卒業生が証明する産業直結型教育の成果

マランゴーニの教育成果は、卒業生のキャリアによって明確に示されています。
2006年にミラノキャンパスを卒業した**ダリオ・ヴィターレ(Dario Vitale)**は、現在ヴェルサーチ(Versace)のチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)として、ブランドの新時代を牽引しています。
また、ミュウミュウ時代における彼の後任であった**フランチェスカ・ニコレッティ(Francesca Nicoletti)**もマランゴーニ出身です。
多くの卒業生が、グローバル・ラグジュアリーグループや独立系ブランドで、デザインや戦略の中核を担っているのです。

市場と直結する「I’M Talent Showroom」

教室の枠を超えた代表的な産学連携プログラムとして、毎年開催される**「I’M Talent Showroom」**があります。
選抜された卒業生デザイナーのコレクションが、世界中のバイヤー、メディア、業界関係者に向けて発表される場です。
このショールームは、実際の市場やファッションウィークへと直結する、実践的なプラットフォームとなっています。

ファッション産業の未来を担う人材を育てる

イスティトゥート・マランゴーニは、産業直結型カリキュラム、世界主要都市を結ぶグローバルネットワーク、そして第一線で活躍する卒業生を通じて、他に類を見ない学びと成長の機会を提供しています。
伝統と革新を融合させた教育哲学のもと、マランゴーニは今日もなお、世界のファッション産業の未来を担う次世代リーダーを育成し続けているのです。

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