<RanRun10周年特別企画>

YouTubeやメディアでも活躍する内科医・橋本将吉先生(ドクターハッシー)が、ヘルスリテラシーを高めるための実践的な健康知識をお届けする連載。医師だからこそ伝えられる“正しい情報”を月替わりテーマで解説します。
「なんとなく調子が悪いけれど、どう伝えたらいいんだろう」
病院に行った時に、困ったことはありませんか?
この“なんとなく”をどれだけ具体的に伝えられるかが、適切な診断への近道になります。
第1回は「痛み」や「違和感」を正確に伝えるためのヒントとなる「オノマトペ」について注目します。

内科医の橋本将吉(ハシモトマサヨシ)です。
日々の診察の中で、患者さんが口にする「痛みの表現」から、診断の重要なヒントを得る場面は少なくありません。
体調が優れないとき、自分の症状を正確に言葉にするのは意外と難しいものです。
「痛い」「違和感がある」といった表現だけでは、その痛みが身体の表面に近いものなのか、 あるいは奥深くの臓器から来ているのかを判断するまでに、時間がかかることもあります。
そこで重要になるのが、私たちが無意識に使っている「ズキズキ」「チクチク」といった擬音語・擬声語(オノマトペ)です。
これらは単なる感覚的な言葉ではなく、主観的な痛みの性質を医学的な診断へと繋げるための、極めて重要な「情報」として機能します。
本日は、内科医の視点から、私が診断の際によく参考にしている「痛みのオノマトペ」についてお話しします。
体調が優れないとき、私たちはつい「なんだか調子が悪い」という言葉で片付けてしまいがちです。
しかし、診察室において、あなたが感じる「ズキズキ」「チクチク」といった擬音語・擬声語(オノマトペ)は、 病気の原因を特定するための極めて重要なデータとなります。
私たちが無意識に使っているオノマトペが、医学的にどのような状態を指し示しているのか。 その代表的な例を解説します。
1・音の響きが持つ「イメージの法則」
日本語のオノマトペには、音の響き(音韻)によって相手に与えるイメージの法則があります。
診察室においても、この法則を理解しておくことは自身の状態を客観的に捉え、医師に正確なニュアンスを伝える大きな助けとなります。
■ 濁音の重さと深さ
「ズキズキ」「ガンガン」「ジンジン」など、濁音が含まれる表現は、一般的に「大きく、重く、鈍く、パワフルな痛み」を表現するのに適しています。
これらは体内の深部で起きている炎症や、血管の拍動、あるいは太い神経の強い圧迫など、身体の内部で大きな変化や負荷がかかっている際に選ばれる傾向があります。
音が持つ「濁り」や「重さ」が、そのまま身体の深部の異常を代弁しているのです。
■ 清音の鋭さと軽さ
対して「チクチク」「ヒリヒリ」など、濁音を持たない清音は、「小さく、軽く、鋭い」イメージを伝えます。
これらは主に皮膚の表面や粘膜など、比較的浅い部位での局所的な刺激を伝える際に役立ちます。
音が持つ「軽快さ」や「鋭さ」が、皮膚バリアの低下や外部刺激による鋭敏な反応を表現するのに適しているためです。
2・オノマトペが示す「体の中」の生理状態
診察室で多用されるオノマトペは、医師が病態を絞り込むための具体的な指標となります。
主要な音の分類とその背景にある身体の状態を詳述します。
■ 頭部の症状と痛みの質 頭痛の診察において、オノマトペは原因を特定する最大のヒントになります。
- ズキズキ:脈打つような痛み(拍動痛)
心臓の鼓動に合わせて、拡張した血管が周囲の神経を刺激することで発生する痛みです。
医学的には「片頭痛」などの血管性頭痛に見られる特徴的な表現です。 - ガンガン:響くような強い痛み
頭の中で大きな音が響いているような、激しい不快感を伴う痛みです。
血管の拡張だけでなく、二日酔いや風邪による高熱時など、全身の炎症反応や代謝異常が頭部に影響を与えている際によく見られます。 - ピリピリ:電気が走るような刺激
皮膚のすぐ下を通る神経そのものが刺激されている際に出現する感覚です。
後頭神経痛などの「神経痛」の典型的なサインとして扱われます。
■ 全身・各部位の痛みと違和感
- ジンジン:しびれを伴う感覚
正座の後のような、感覚の麻痺や違和感を伴う痛みです。
医学的には「神経障害性疼痛」と呼ばれる、神経の損傷や慢性的な圧迫が原因で起こる状態を示唆します。 - チクチク:針でつつかれるような鋭い痛み
局所的で鋭い刺激です。 皮膚表面の過敏状態や、衣服による摩擦など、外側からの物理的な刺激に対して敏感になっている状態を指します。 - ヒリヒリ:熱感を伴う表面的な痛み
皮膚表面の炎症に伴う感覚です。 日焼けや軽度の火傷のように、皮膚のバリア機能が低下し、少しの刺激(水や風など)に対しても痛みを感じる状態や、粘膜が露出している際に出現します。
3・感覚を共有するための「具体的な例え」
オノマトペは非常に便利なツールですが、個人の主観に依存するため、受け取り手によって解釈がわずかに異なる場合もあります。
そこで重要になるのが、日常生活のシーンを用いた「例示」の併用です。
自身の感覚を誰もが想像できる具体的なシチュエーションに置き換えることで、医師との認識のズレを最小限に抑えることができます。
- ガンガン:「頭の中で太鼓を叩かれているような痛み」
単なる痛みだけでなく、「振動」と「衝撃」がセットであることを伝えることができます。
太鼓の膜が震えるように、頭の奥で痛みが響き渡り、動くたびにその衝撃が強まるという、脈打つような苦しさを明確に表現できます。 - チクチク:「針で刺されているような痛み」
痛みが広い範囲ではなく、「点」で起きていることを伝えることができます。
裁縫針の先で突かれたような、鋭くて細い刺激が、一瞬または断続的に走る「神経の過敏さ」を表現するのに適しています。 - ヒリヒリ:「日焼けした時のような痛み」
痛みの原因が奥深くではなく、「皮膚の表面」にあると伝えることができます。
日焼けのあとのように、熱を持っていて、服が擦れたり風が当たったりするだけでも不快に感じる「過敏な炎症状態」であることが伝わります。
4・自分の感覚を信じて伝えること
医療現場において、患者が感じる主観的な感覚は、血液データや画像検査と同様に尊重されるべき「事実」です。
「うまく医学的な言葉に変換しなければならない」と構える必要はありません。
感じたままの音を言葉に乗せて伝えることが、適切な治療への最短ルートとなります。
なお、痛みの感じ方には個人差があるため、これら全てのオノマトペが必ずしも特定の病状と当てはまるわけではありません。
大切なのは一般論に合わせることではなく、今のあなたにとって最も「しっくりくる音」を正直に伝えることです。
自身の症状を「なんとなく悪い」という曖昧な表現で終わらせず、適切なオノマトペと具体的な例えを選択することは、 自分自身の健康を管理するための高度なコミュニケーションスキルと言えます。
5.まとめ
痛みは目に見えませんが、「ズキズキ」「チクチク」といった何気ない表現には、身体の状態を伝える手がかりが含まれています。
違和感を覚えたとき、その感覚をどう表現するかは人それぞれです。
自分にとってしっくりくる言葉を、大切にしてみてください。
次回は「事前にメモっておきたい症状のポイント」です。
橋本 将吉先生プロフィール

内科医。
高齢者向けの訪問診療『東京むさしのクリニック』院長。
2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念の元、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。
将来の医師を育てる医学生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営や、自らが『ドクターハッシー(内科医 橋本将吉)』というYouTubeで健康教育を行う。
2022年9月に、健康や医学を医師から学ぶ事のできるサービス『ヘルスケアアカデミー』をリリース。
ヘルスケアアカデミー事業の一環として、企業や学校等でセミナーを開催している。
また、2023年11月には現役の医師目線で日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、口腔ケアタブレットをはじめとする健康製品を展開している。
「めざましテレビ」「ホンマでっか!TV」など多数のテレビ番組の出演、「世界一受けたい授業」「林修の今、知りたいでしょ!」など、人気番組の医療監修を手掛け、著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。
リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/
医学生道場:https://igakuseidojo.com/
ヘルスケアアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/
ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/
https://www.youtube.com/@Dr.Hassie
