
YouTubeやメディアでも活躍する内科医・橋本将吉先生(ドクターハッシー)が、ヘルスリテラシーを高めるための実践的な健康知識をお届けする連載。医師だからこそ伝えられる“正しい情報”を月替わりテーマで解説します。
診察の場面で、「何から話せばいいのだろう」と迷った経験はありませんか?
限られた時間の中で症状を正確に伝えるためには、事前の“メモ”が大きな助けになります。
第2回は、医師が問診で重視しているポイントと、診察をスムーズにするための具体的な「症状メモ術」を解説します。

内科医の橋本将吉(ハシモトマサヨシ)です。
前回の記事では、痛みや違和感を言葉で説明しづらいときに役立つ手段として、オノマトペ(擬音語・擬態語)を紹介しました。
「ズキズキ」「ジンジン」「ムカムカ」といった感覚表現は、医師にとっても患者さんの状態を掴む大きなヒントになります。
ただ、診察室という限られた時間の中で、自分の感じている症状を整理して伝えるのは、実際はとても難しいことです。
「どこから話していいか分からない」
「途中で話がまとまらなくなる」
といった悩みは、多くの方が抱えているものです。
そこで今回は、診察前にどんな項目をメモしておけば医師とスムーズに話せるのか、そして前回お話しした“オノマトペ”をより活かすための具体的な「メモ術」を、内科医の視点から丁寧に解説します。
1. 医師が問診で必ず確認する5つの軸:痛みの「OPQRST」
医師が症状を理解するとき、必ずチェックする要素があります。
実はこれ、医学界では「OPQRST」という頭文字で呼ばれる重要な診断基準に基づいています。
メモをこの軸に沿って書くと、問診がスムーズに進み、原因の特定がぐっと早まります。
① 「いつから?」Onset(発症) / Timing(時期・経過)
始まったのは何月何日? 突然ガツンと来た? それとも徐々に?
ずっと痛いのか、それとも良くなったり悪くなったり波があるのかを確認します。
② 「どこが?」Region / Radiation(部位・放散)
痛みや違和感があるのはどこですか?
指一本で指せる場所なのか、それとも全体が広く重たいのか。
また、別の場所に痛みが広がる(放散する)ことはないかをチェックします。
③ 「どんな感じ?」Quality / Quantity(質・性質)
ここで前回の「オノマトペ」を使いましょう!
痛みの質感や違和感のタイプを、一番近い感覚で表現してください。
「キリキリ」「シクシク」「ズーン」「ムカムカ」「焼けるような感じ」など、直感でOKです。
④ 「どれくらい?」Severity(重症度・強さ)
生活にどれくらい影響があるか(仕事ができない、眠れないなど)を考えます。
一番の痛みを「10」とすると、今はいくつくらいなのかを数字で表すと伝わりやすくなります。
⑤ 「きっかけは?」Provocation / Palliation(誘因・増悪・緩和)
「食べたら痛い」「動くと苦しい」「この姿勢だと楽になる」といった、特定のタイミングやきっかけを確認します。
私たち医師や看護師は、常にこの「OPQRST」のリストから問診を行い、一人ひとりの状態を分析しています。
この5つの情報が揃っていると、病気の可能性を正確に、そしてぐっと絞り込みやすくなるのです。
2. 症状は「点」ではなく「流れ」で捉える:時系列メモのすすめ
診察時に「昨日から胃が痛いです」という「点」の情報だけでは、その裏にある変化を掴みきれないことがあります。
一番伝わりやすいのは、時系列(タイムライン)で書くメモです。
● 時系列の例
3日前の夜:胃にモヤモヤした違和感
翌朝:少し軽減
その日の昼食後:キリキリした痛みが出現
診察当日の朝:ズーンと重たい感じに変化
このような「流れ」があるだけで、食事との関連や炎症の有無、性質の変化など、医師はリアルに状況をイメージできるのです。
3. “症状以外の変化”を必ず書く:生活情報は診断の重要材料
身体の不調は、日々の生活の変化と密接に結びついています。
患者さんが「関係ないと思って書かない」情報の中にこそ、実は診断の決め手が隠れていることが多いのです。
チェックしておきたい生活の変化
- 食事量や食べられる品目の変化
- 眠りの質(寝つき、夜間覚醒など)
- 便通・尿の変化
- 体重の増減(1〜2kgの変化も重要です)
- ストレス、環境、気温の変化
- 薬の飲み忘れ、新しく始めたサプリメント
特に内科では、生活習慣の変化が病状の引き金になっていることが多くあります。
生活情報は「何が症状を悪化させているか」「背景に病気が隠れているか」を判断する重要な材料です。
4. 「もしかして…?」という不安こそメモする価値がある
患者さんの「心配しているポイント」は、診断の方向性を決めるうえで非常に重要です。
「心配しすぎかも…」と遠慮される方も多いのですが、不安も大切な症状の一部です。
メモすべき不安ポイント
- 自分が思い当たる病気(胃がん?心臓?自律神経?など)
- 家族に同じ症状の人がいる
- 過去に似た症状でつらかった経験
- 特定の臓器に対する不安(婦人科系・心臓・糖尿など)
医師は、あなたが何を気にしているのかを知ることで、解説の深さや必要な検査の選択を、よりあなたに寄り添ったものへと調整できるのです。
ですので「不安も症状の一部」と考えて、遠慮せずメモに残しておくことをおすすめします。
5. “なんとなく変”を言語化するための視点
違和感は最も説明しにくい感覚ですが、医師はその情報をとても重視します。
前回扱ったオノマトペに加えて、以下の観点で整理してみましょう。
違和感をメモするヒント
- 身体のどの層の感覚?(皮膚の表面/筋肉/内臓の奥のほう)
- どんなときに気づく?(歩くとき、食後、深呼吸時など)
- 時間帯(朝・夜だけ/一日中)
- 温度との関連(冷えると悪化する、温めると軽くなるなど)
- 「痛い」のか「気持ち悪い」のか「重い」のか
- オノマトペにすると?(モヤッ、チリチリ、グラッ、フワッなど)
- 人に説明するとき、一言で言うなら?
こうして“なんとなく”の輪郭が見えるようになると、医師は原因を追いやすくなります。
■ まとめ:症状メモはもう一つの“あなたの言葉”
診察の場でうまく話せなかったり、言葉に詰まってしまうのは自然なことです。
しかし、事前にメモがあるだけで、落ち着いて説明でき、限られた診察時間を最大活用できるという大きなメリットがあります。
症状の“質感”を伝える「オノマトペ」と、今回の「メモ術」。
この2つを組み合わせることで、より正確な診断と、あなた自身が納得できる治療へとつながっていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
内科医の橋本将吉(ハシモトマサヨシ)でした。
第1回「違和感を伝えやすいオノマトペ」はこちら
橋本 将吉先生プロフィール

内科医。
高齢者向けの訪問診療『東京むさしのクリニック』院長。
2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念の元、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。
将来の医師を育てる医学生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営や、自らが『ドクターハッシー(内科医 橋本将吉)』というYouTubeで健康教育を行う。
2022年9月に、健康や医学を医師から学ぶ事のできるサービス『ヘルスケアアカデミー』をリリース。
ヘルスケアアカデミー事業の一環として、企業や学校等でセミナーを開催している。
また、2023年11月には現役の医師目線で日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、口腔ケアタブレットをはじめとする健康製品を展開している。
「めざましテレビ」「ホンマでっか!TV」など多数のテレビ番組の出演、「世界一受けたい授業」「林修の今、知りたいでしょ!」など、人気番組の医療監修を手掛け、著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。
リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/
医学生道場:https://igakuseidojo.com/
ヘルスケアアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/
ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/
https://www.youtube.com/@Dr.Hassie
