
YouTubeやメディアでも活躍する内科医・橋本将吉先生(ドクターハッシー)が、ヘルスリテラシーを高めるための実践的な 健康知識をお届けする連載。
医師だからこそ伝えられる“正しい情報”を月替わりテーマで解説します。
「プチ断食を試してみたら体が軽くなった」「ファスティングで腸がリセットされる気がする」
SNSやメディアで話題のファスティングに、一度は興味を持ったことがあるのではないでしょうか。
でも、本当に身体にいいの?やってはいけない人はいるの?
第17回は、内科医がファスティングの効果とリスクを本音でお伝えします。
内科医の橋本将吉(ハシモトマサヨシ)です。
ファスティングについては、患者さんからもよく質問をいただきます。
「やってみたいけど身体に悪くないですか?」という声が多い一方、「もうやっています」という方も増えています。今回は、医師として正直にメリットもリスクも両方お伝えします。
「ファスティング」とは何か
ファスティングとは、一定時間・一定期間、食事を制限または断つことで身体に特定の変化を起こそうとする健康法です。
完全に何も食べない「完全断食」から、時間を区切って食事をとる「間欠的ファスティング」まで、さまざまな方法があります。
近年よく聞くのは「16時間断食(16:8ダイエット)」と呼ばれる方法で、1日のうち16時間は食事をとらず、残りの8時間の中で食事を済ませるというものです。
たとえば夜8時に食事を終えたら、翌日の昼12時まで食べない、というサイクルです。

内科医がみるファスティングのメリット
研究によって一定の効果が示されているものを、医師の視点から整理します。
① オートファジーの活性化
食事をとらない時間が続くと、身体は細胞内の古くなったタンパク質や壊れた成分を分解・再利用する「オートファジー(自食作用)」という仕組みを活性化させます。
これは細胞レベルの「大掃除」とも言われ、細胞の老化を遅らせる可能性があるとして注目されています。
2016年にはこの研究でノーベル医学・生理学賞が授与されました。
ただし、オートファジーが健康にどこまで直接寄与するかについては、まだ研究途上の部分も多く、過度な期待は禁物です。
② 血糖値・インスリンの安定
食事をとるたびに血糖値は上昇し、インスリン(血糖を下げるホルモン)が分泌されます。
食事の間隔を空けることでこのサイクルが整い、血糖値の乱高下が抑えられるという効果が期待できます。
血糖値の安定は、食後の眠気・集中力の低下・食欲のコントロールにも関係しています。
③ 胃腸の「休息時間」を確保できる
現代人は食事の間隔が短く、胃腸が休まる時間がほとんどない状態で過ごしています。
一定時間食事をとらないことで消化器官に休息を与え、消化機能の回復を促す効果が期待できます。
「断食後に胃腸が軽くなった」という感覚は、この休息効果によるものと考えられます。
内科医が正直に語るリスクと注意点
メリットがある一方、ファスティングには無視できないリスクもあります。
ここを知らずに始めるのは危険です。
① 筋肉量の低下
食事を極端に制限すると、身体はエネルギー源として脂肪だけでなく筋肉のタンパク質も分解して使い始めます。
特に完全断食や長期のファスティングでは、筋肉量の低下が起きやすくなります。
筋肉は基礎代謝(じっとしていても消費されるエネルギー)の源であり、減ると太りやすい身体になるという皮肉な結果を招くことがあります。
② 血糖値の急激な低下(低血糖)
食事をとらない時間が長くなると、血糖値が下がりすぎて、頭痛・めまい・集中力の低下・手の震えなどの低血糖症状が現れることがあります。
特に糖尿病の薬を服用している方や、もともと低血糖になりやすい方は、医師の指導なしに始めることは避けてください。
③ 「反動食い」による逆効果
断食後の食事で、空腹感から必要以上に食べてしまう「反動食い」が起きると、血糖値が急激に上昇し、かえって身体への負担が増します。
ファスティングで体重が増えたという方の多くは、この反動食いが原因です。
④ 女性ホルモンへの影響
特に女性は、過度な食事制限によって女性ホルモンの分泌が乱れるリスクがあります。
極端なカロリー不足や長期のファスティングは、月経不順・無月経・骨密度の低下につながる可能性があるため、注意が必要です。
こんな人はファスティングを避けてください
以下に当てはまる方は、始める前に必ず医師に相談してください。
☑ 糖尿病・低血糖症などの血糖値に関わる疾患がある
☑ 摂食障害(過食・拒食)の経験がある、または傾向がある
☑ 妊娠中・授乳中・妊娠を希望している
☑ 成長期(10代)である
☑ 現在、何らかの薬を服用している
☑ 過去に月経不順や無月経を経験したことがある
☑ BMIが低く、もともと痩せている

内科医が考える「安全なファスティングの始め方」
どうしても試したいという方のために、リスクを最小限にした始め方をお伝えします。
まずは「完全に食べない」のではなく「食べる時間を意識する」ところから始めることをおすすめします。
💡 POINT:最初の一歩は「夕食から翌朝食まで12時間空ける」程度で十分です。
睡眠時間を含めれば、無理なく達成できる時間です。

慣れてきたら少しずつ食事をとらない時間を延ばしていく方法が、身体への負担が少なく続けやすいアプローチです。
食事をとらない時間帯でも、水・お茶・ブラックコーヒーなどカロリーのない飲み物は摂ることができます。
水分補給は忘れずに行ってください。
ファスティング中に体調が悪くなったら、すぐに中止することが原則です。
「せっかく始めたから」と無理に続けることは、身体にとって何のメリットもありません。
⚠️ ファスティング明けの最初の食事は、おかゆ・スープ・果物など消化にやさしいものから始めましょう。
揚げ物・肉類など消化の重い食事は、空腹状態の胃腸に大きな負担をかけます。
おわりに
ファスティングには、オートファジーの活性化・血糖値の安定・胃腸の休息という一定のメリットがある一方で、筋肉量の低下・低血糖・ホルモンバランスへの影響というリスクも存在します。
大切なのは、流行っているからやるのではなく、自分の身体の状態を知った上で、無理のない範囲で取り入れることです。
「なんとなく良さそう」ではなく「どんな効果があって、どんなリスクがあるか」を理解してから始めることが、身体を守る最初の一歩になります。
橋本 将吉先生プロフィール

内科医。『西新宿セルフライフ内科クリニック』院長。
登録者数88万人超えのYouTubeチャンネル『ドクターハッシー/内科医 橋本将吉』にて 健康教育を発信している。2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念のもと、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。
医学生向けの個別指導塾『医学生道場』を運営するほか、2022年9月には健康や医学を医師から学べるサービス『リーフェアカデミー(旧:ヘルスケアアカデミー)』をリリースし、企業や学校等でのセミナーも展開している。
2023年11月には、現役医師の目線から日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、乳酸菌飲料「乳酸菌V28」などの商品を展開している。
2026年7月には「西新宿セルフライフ内科クリニック」を開院し、院長を務める。
「櫻井・有吉THE夜会」「林修の今、知りたいでしょ!」「めざましどようび」など多数のテレビ番組に出演。
著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)、『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。
リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/
西新宿セルフライフ内科クリニック:https://selflife.clinic/
医学生道場:https://igakuseidojo.com/
リーフェアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/
ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/
