
YouTubeやメディアでも活躍する内科医・橋本将吉先生(ドクターハッシー)が、ヘルスリテラシーを高めるための実践的な 健康知識をお届けする連載。
医師だからこそ伝えられる“正しい情報”を月替わりテーマで解説します。
「平日は睡眠不足だから、週末にまとめて寝て取り戻す」そんな習慣、ついやってしまっていませんか?
実は、寝だめは医学的には「できない」ことが分かっています。
第16回は、前回の残暑バテ回復に続き、なぜ寝だめが逆効果なのか、そして本当に睡眠をリセットするにはどうすればよいのかを、医師の視点からお伝えします。
内科医の橋本将吉(ハシモトマサヨシ)です。
「週末に2〜3時間長く寝ればリフレッシュできる」という感覚を持っている方は多いと思います。
今回は、その「常識」を医学的に整理しながら、睡眠を正しくリセットする方法をお伝えします。
そもそも「寝だめ」はなぜできないのか

寝だめが逆効果になる理由は、大きく3つあります。
理由① 睡眠の借金は、まとめて返済できない
眠れなかった分の疲労は確かに蓄積しますが、長時間寝ることで一気に解消できるわけではありません。
2〜3日の睡眠不足を1〜2日で完全に取り戻すことは、生理学的に難しいとされています。
理由② 体内時計がずれて「月曜日がつらい」になる
週末に2〜3時間遅い時刻まで寝ると、体内時計がずれてしまいます。
これは海外旅行による時差ぼけと同じメカニズムで、「社会的時差ぼけ(ソーシャルジェットラグ)」と呼ばれています。
月曜日の朝に「なんとなくつらい」「頭が働かない」という感覚の多くは、これが原因です。
理由③ 長く寝ても「深い眠り」は増えない
通常の睡眠では、最初の2〜3時間に深いノンレム睡眠(疲労回復に直結する眠り)が集中しています。
いつもより長く寝ても、増えるのは浅いレム睡眠の割合だけです。
💡 POINT:寝だめで増えるのは「浅い眠り」だけ。
疲労回復に必要な「深い眠り」は、時間を増やしても増えません。

「睡眠リセット」とは何か
睡眠リセットとは、乱れた体内時計と睡眠パターンを正しい状態に戻すことです。
特効薬のような一発逆転の方法はなく、正しい習慣を組み合わせることで少しずつ整えていくものです。

ここで大切なのは、「眠れない」という結果だけに対処しようとしないことです。
睡眠の問題は多くの場合、以下の3つが絡み合って起きています。
- 体内時計のズレ
- 深部体温の調節の乱れ
- 睡眠ホルモン(メラトニン)の分泌タイミングのズレ
薬に頼らずこれらを整えるカギは、光・体温・カフェインという3つの要素をコントロールすることです。
次の項目で紹介する4つの習慣は、いずれもこの3つに直接働きかけるものです。
💡 POINT:睡眠リセットには即効性を期待しないことも大切です。
1〜2週間、正しい習慣を続けることで体内時計が本来のリズムを取り戻していきます。
「今夜だけ頑張る」より、「毎日少しずつ整える」という視点で取り組んでみてください。
今日から始める、睡眠リセットの4つの習慣
これら4つの習慣は単独でも効果がありますが、組み合わせることで体内時計の回復が加速します。
どれか1つから始めてみてください。
① 起床時刻を毎日同じにする
睡眠リセットの鉄則は、就寝時刻よりも起床時刻を固定することです。
眠れない夜があっても、起きる時刻だけは変えない。
これが体内時計を整える最も効果的な方法です。
週末に「1時間だけ遅く起きる」程度であれば影響は小さいですが、2〜3時間のずれは体内時計を乱します。

② 起床後30分以内に朝の光を浴びる
朝の光は体内時計をリセットする最強のスイッチです。
目から入った光が視交叉上核(体内時計の中枢)に伝わり、そこから約14〜16時間後にメラトニン(睡眠ホルモン)が分泌されるようになります。
起床後はカーテンを開け、窓のそばで5〜10分過ごすだけでも効果があります。

③ 就寝2時間前から「脳と体をクールダウンする」
眠りにつくためには深部体温(体の内部の温度)を下げる必要があります。
就寝2時間前に38〜40℃のぬるめのお湯で入浴することで、入浴後に体温が自然に下がり、スムーズな入眠が促されます。
就寝前のスマートフォン・強い照明・激しい運動はいずれも深部体温を上げるため、できるだけ避けましょう。
💡 POINT:入浴は「眠る2時間前」が最も効果的なタイミングです。

④ カフェインの「門限」を午後3時に設ける
カフェインの半減期は約5〜7時間。
夕方17時にコーヒーを飲むと、深夜0時頃まで半分の量が体内に残っている計算になります。
睡眠リセットを行っている期間は特に、午後3時を「カフェイン門限」として意識してみてください。

眠れない夜の、正しい向き合い方
眠れないとき、やりがちな行動はかえって眠りを遠ざけることが少なくありません。
「こんなときどうする?」をまとめました。
❌ ベッドの中でスマートフォンを見る
→ ブルーライトがメラトニンの分泌を抑え、眠気を遠ざけます。
眠れないならいったん別の部屋へ移動し、照明を落とした状態で読書や深呼吸に切り替えましょう。
❌ 「早く眠らなければ」と焦る
→ 焦りは交感神経を優位にして逆効果です。
「眠れなくてもただ横になるだけでいい」と自分に言い聞かせることで、かえって自然な眠気が訪れやすくなります。
❌ 眠れないからとアルコールを飲む
→ アルコールは入眠を早めますが、睡眠の質を大幅に低下させます。
特に後半の睡眠が浅くなり、翌朝の疲労感が増す原因になります。
白湯やカモミールティーなど、カフェインを含まない温かい飲み物に置き換えてみてください。
❌ 「昨日眠れなかったから」と翌朝遅く起きる
→ 寝不足でも起床時刻を変えないことが、体内時計の崩れをそれ以上広げない方法です。
日中の眠気は、昼食後の15〜20分の仮眠でカバーしましょう。
おわりに
睡眠は「たくさん寝ればOK」ではなく、「正しいリズムで、質よく眠る」ことが本質です。
寝だめで取り戻そうとするほど、月曜日の朝がつらくなるという悪循環から抜け出すために、まずは「毎朝同じ時刻に起きて、朝の光を浴びる」この1つだけを今日から始めてみてください。
小さな習慣の積み重ねが、睡眠の質を根本から変えていきます。
橋本 将吉先生プロフィール

内科医。『西新宿セルフライフ内科クリニック』院長。
登録者数88万人超えのYouTubeチャンネル『ドクターハッシー/内科医 橋本将吉』にて 健康教育を発信している。2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念のもと、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。
医学生向けの個別指導塾『医学生道場』を運営するほか、2022年9月には健康や医学を医師から学べるサービス『リーフェアカデミー(旧:ヘルスケアアカデミー)』をリリースし、企業や学校等でのセミナーも展開している。
2023年11月には、現役医師の目線から日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、乳酸菌飲料「乳酸菌V28」などの商品を展開している。
2026年7月には「西新宿セルフライフ内科クリニック」を開院し、院長を務める。
「櫻井・有吉THE夜会」「林修の今、知りたいでしょ!」「めざましどようび」など多数のテレビ番組に出演。著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)、『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。
リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/
医学生道場:https://igakuseidojo.com/
リーフェアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/
ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/
