あなたの“走り”は、誰かの支えに支えられている。
長距離ファンの間で「夏の風物詩」として親しまれているホクレン・ディスタンスチャレンジ(通称:ホクレンDC)。
選手たちの熱い走りの裏側には、もう一つのドラマがあります。
それは、選手たちを「支える人」の物語。
ホクレンDCは、日本の長距離トップ選手が集い、道内5ヶ所(深川・士別・千歳・北見・網走)を転戦して行われる。
コンセプトは、「開催都市の観光促進、地域振興に繋がり、住民に喜ばれるイベントとして中長距離シリーズを開催し、国際競技会で活躍できる中長距離選手の育成・強化を図る」。

玉井康夫さん(北海道陸上競技協会審判委員長)は、深川と士別の2大会で舞台裏を支え続けています。
審判として、指導者として、そして一人の陸上ファンとして、スポーツを支えるという生き方が、どんなやりがいや広がりを持つのかを教えてくれました。
審判として、地元から日本・世界へ
玉井さんは、地元・深川西高校の教員でありながら、北海道各地の大会運営を支えるS級公認審判員・World Athleticsブロンズ資格保有者。
深川大会では総務を担当し、 大会までは競技役員の配置、競技運営マニュアルの作成、写真判定用のカメラや照明テストなどの大会準備。
大会当日は競技役員の打合せ進行や、競技会がスムーズに運営されるように、全体を見て動きます。
また地方陸協と自治体や日本陸連との調整をし、地元ではホクレンDC深川大会運営委員も務めています。
士別大会では今年は周回記録員を務め、選手が正規の距離を走りきれるように、全選手の周回数をカウントしたり、選手達に残りの周回を周回板やラストの鐘でお知らせします。
昨年までは長らく出発係を務め、スタートラインへの選手の整列、ビブスや腰ナンバー標識の確認、スターターと連携して定刻でのスタートに努めていました。
2025年の世界陸上東京大会でも審判として関わる予定。
地方にいながら、世界の舞台でも活躍できる道がある——それを玉井さん自身が体現しています。

「あの選手の記録の裏で、私たちが見たもの」
玉井さんがは第1回から毎年審判員としてホクレンDCに参加してきました。
今や大会運営の中枢を担う存在となった玉井さんは、大会が大きなトラブルなく進行すること、来道してくれた選手がパーソナルベストなどのお土産を持って帰れること、観客の皆さんに陸上競技や長距離種目の魅力を知ってもらえることに気持ちが向いていると話します。
玉井さんが現場で見てきた数々のエピソードからは、選手と支える人々の深い信頼関係が伝わってきます。

全国の競技会が全て中止されていったコロナ禍でも、ホクレンDCはゾーン分けやアクリル板、リモートによるテクニカルミーティングなど、万全なコロナ対策を取りながら開催されました。
玉井さんは、それを皮切りにその後の様々な競技会開催が続いたことが忘れられないと言います。
間違いなくホクレンDCがコロナ禍での競技会開催のモデルケースになり、地方陸協での競技会も対策をとりながらの開催に徐々に向かっていきました。
15年ほど前の士別大会では、レース途中に大きな雷の音がし、照明や音声が全てダウンしたことがあります。
写真判定が動いていないのではないか、人的被害はないのか、焦りを感じながらも、電源は補助電源などで対応。
レースはストップすることなく継続され、記録も公認されホッとしたことも忘れられない思い出になっています。
深川大会で田中希実選手が日本新記録を出した時は、副賞の牛一頭を受け取る田中選手の微妙な表情だったこと。
士別大会で大迫傑選手が5000mレース2本に出場した時は、上位で走りきり、さらに大会終了後もダウンとは思えないスピード感で練習をしている様子を見たこと。
玉井さんには、その場にいたからこそ見ることができた場面、味わえない緊張や感動がつまったたくさんのエピソードがあります。

ホクレンDC2024・深川大会では三浦龍司(SUBARU)も出場し、地元の観客たちを大いに喜ばせた。
スポーツを支える側で、地域から世界へ
玉井さんは、9月に開催される東京世界陸上で、NAR(世界陸連が認定する審判員)として大会をサポートする予定です。
東京五輪大会で声がかかった時に、「北海道の片田舎からでもオリンピックに関わる人が出れば、地方に住む人々の希望や勇気になるかもしれないと考え、受験することにしました」と言います。
スポーツの世界には、選手になる道だけでなく、支える立場で輝く道もあります。
教育現場での指導、地域スポーツへの貢献、大会の運営、そして国際大会での審判活動。
どれも、スポーツの価値を高め、選手の可能性を広げていく仕事です。
「言葉も文化も異なる世界各地のトップアスリートたちを、最高のパフォーマンスが発揮できる気持ちと雰囲気を保てるように、最高のパフォーマンスを通じて、様々な壁を乗り越えた交流が深まるように、スタートラインや試技会場へ誘導したい」と、玉井さん。

「応援する」その先にある、交流と感動を
玉井さんには、ホクレンDCを多くの陸上競技ファンや観客が訪れて、まるでお祭りのような賑わい、スポーツイベント、フポーツフェスのような賑わいになるような大会にしたいという想いがあります。
選手や監督さんたちが、ただ走るために来て終わったら帰るのではなく、ファンや観客との交流や地元のジュニア選手との交流の場を作るという夢があります。

「ここにいるすべての人のチャレンジだ」
ホクレンDC2025のテーマは、「ここにいるすべての人のチャレンジだ」。
走る人も、支える人も、応援する人も——誰もが挑戦者であり、この舞台の一部。
スポーツを支える側の視点を知ることで、競技をもっと深く楽しめる。
そんな気づきを与えてくれる、玉井さんのストーリー。
大会情報
- ホクレンDC2025大会 公式サイト: https://www.jaaf.or.jp/distance/
- 大会詳細ページ: https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1948/
情報提供 公益財団法人日本陸上競技連盟
写真提供 アフロスポーツ
将来、スポーツに関わる仕事がしたいあなたへ
スポーツを頑張っている学生さんに取材をしていると、将来はスポーツに関わる仕事をしたいと話してくれる方は少なくありません。
審判や運営という立場で、選手たちの背中を押す——そんな進路も選択肢のひとつ。
スポーツの未来は、選手だけでなく“支える人”の情熱によってつくられるということをあらためて感じますね。
<ホクレンDC大会概要>
主催:日本陸上競技連盟
共催:日本実業団陸上競技連合、深川市、士別市、千歳市、北見市、網走市
後援:北海道新聞社、北海道文化放送、読売新聞社
主管:空知陸上競技協会、道北陸上競技協会、道央陸上競技協会、オホーツク陸上競技協会
協賛:ホクレン農業協同組合連合会
特別協賛:プーマジャパン株式会社、NTT西日本株式会社、雪印メグミルク株式会社
協力:韓国実業陸上連盟
運営協力:ディスタンスチャレンジ実行委員会
玉井康夫さんプロフィール
1966年 深川市生まれ
中学校時代は野球部に所属。中体連の陸上や駅伝大会に駆り出されて出場していた。
初めてスパイクを履き、ユニフォーム着用で走った競技場が士別市陸上競技場。
高校は地元深川西高校に進学。陸上競技部に入部して本格的に練習を開始。
高校時代は長距離種目を専門とし、5000mをメインに。
インターハイや京都・都大路を目指して練習に励むものの、夢は実現せず。
大学は北星学園大学文学部英文学科。陸上競技部に入部。
卒業後は教員となり、陸上競技部の第3顧問として指導者人生をスタート。
多くの選手に、自分では実現できなかったインターハイの舞台に監督として連れて行ってもらった。
勤務校歴:釧路西高校 ⇒ 池田高校 ⇒ 士別高校 ⇒ 士別翔雲高校 ⇒ 深川西高校
現在務めている役職
・北海道深川西高等学校 陸上競技部顧問
・一般財団法人北海道陸上競技協会 審判委員長
・空知陸上競技協会 審判委員長
・北海道高等学校体育連盟 陸上競技専門委員
・ホクレン・ディスタンスチャレンジ深川大会運営委員会 副会長
(JAAF公認審判員 S級 / World Athletics Referee Bronze)
