
YouTubeやメディアでも活躍する内科医・橋本将吉先生(ドクターハッシー)が、ヘルスリテラシーを高めるための実践的な 健康知識をお届けする連載。
医師だからこそ伝えられる“正しい情報”を月替わりテーマで解説します。
「週末にまとめて作り置きして、平日を乗り切る」忙しい女性にとって、作り置きは欠かせない時短術ですよね。
しかし夏の作り置きには、冬とは比べ物にならない食中毒のリスクが潜んでいます。
第14回は、食中毒の仕組みと正しい作り置きのルール、そして夏に積極的に摂りたい栄養素をお伝えします。

内科医の橋本将吉(ハシモトマサヨシ)です。
食中毒は「あたり前のように注意している」という方でも、実は誤ったリスク認識で過ごしていることが多いです。今回は、医師の視点から夏の食事管理を正しく整理してお伝えします。
なぜ夏の作り置きは危険なのか
理由はシンプルです。
夏の室温が、細菌にとって最も増殖しやすい温度帯と完全に一致しているからです。
食中毒を起こす細菌の多くは、20〜40℃の環境で急激に増殖します。
この温度帯を「危険温度帯」と呼びます。
夏の室温はまさにこの真ん中にあたり、作り置き料理を常温で放置するだけで、細菌が数時間のうちに爆発的に増えることがあります。
冬なら問題なかった保存の仕方が、夏は食中毒の原因になる。
それが夏の作り置きが危険といわれる理由です。
特に注意が必要な食中毒菌
夏の作り置きで特に気をつけるべき菌は3つあります。
それぞれ「どんな料理に潜むか」「何が怖いか」を押さえておきましょう。
①黄色ブドウ球菌
人の手や皮膚に常在する菌です。
最も怖いのは、この菌が産生する毒素が加熱しても消えないこと。
おにぎりや和え物など素手で触れる料理は特に注意が必要です。
②サルモネラ菌
生卵・鶏肉を使った料理に多く潜んでいます。
75℃以上で1分以上加熱すれば死滅しますが、室温での増殖スピードが速いため、調理後の保存管理が命綱になります。
③ウェルシュ菌
カレーやシチューなどの煮込み料理に発生しやすい菌です。
酸素のない環境を好むため、大鍋の中心部で増殖しやすく、「大量に作って常温保存」が最も危険なパターンです。

夏の作り置きを安全にする5つのルール
食中毒を防ぐカギは「つけない・増やさない・やっつける」という3原則です。
これを作り置きに当てはめると、以下の5つになります。

① 調理後は速やかに冷やして冷蔵・冷凍する
💡 POINT:食品を安全に保つ温度は「10℃以下」または「65℃以上」です。
この間の温度帯に食品を長く置かないことが基本です。
作り置き料理は粗熱が取れたらすぐ冷蔵庫へ。
「冷めてから入れた方がいい」という考えは誤りで、冷蔵庫内の温度上昇を避けるために「小分けにして素早く冷ます」方が正しい対応です。
保冷剤の上に容器を置いて急冷する方法が有効です。
② 冷蔵保存は「2〜3日以内」を鉄則にする
夏の作り置きは、冬のように4〜5日保つと考えてはいけません。
冷蔵庫内でも細菌は少しずつ増殖します。
夏は2〜3日以内を目安に食べ切り、それ以上保存したい場合は冷凍を選びましょう。
③ 再加熱は「中心温度75℃以上・1分以上」を徹底する
取り出した作り置きを食べる際は、必ず十分に再加熱してください。
電子レンジで温める場合は、容器の外側が熱くなっていても中心が温まっていないことがあります。
かき混ぜながら加熱するか、電子レンジ後にさらに少し加熱する習慣をつけましょう。
④ 素手で触れる機会を最小限にする
黄色ブドウ球菌は手指から食品に移ります。
盛り付けの際はトング・スプーンなどを使い、素手で触れる機会を減らすことが予防の基本です。
調理前の手洗いはもちろん、調理中も「生肉・魚を触ったら必ず手を洗う」を徹底しましょう。
⑤ 水分の多い食材・料理は特に注意する
水分が多い食材(豆腐・和え物・煮物など)は細菌が増殖しやすい環境です。
これらは特に保存期間を短くし、食べる直前に少量だけ取り分ける習慣をつけましょう。
食中毒リスクを下げながら栄養を摂る、夏の食材選び
夏の食事管理は、「食中毒リスクが低い食材」で必要な栄養素を補うこともポイントです。
作り置きに頼りすぎず、できるだけその都度食べられるものを中心に組み立てましょう。
調理不要・そのまま食べられるもの(最もリスクが低い)
バナナ・アボカド・トマト・きゅうりは、カリウムやビタミンを手軽に摂れる夏の定番食材です。
切るだけ・剥くだけで食べられるため、食中毒のリスクがほとんどなく、忙しい日の時短栄養補給として最も安心な選択肢です。

発酵食品(リスクが低く、腸内環境も整える)
納豆・ヨーグルトは、もともと食中毒菌が繁殖しにくい発酵食品です。
腸内環境を整え、夏の免疫力低下を防ぐ効果も期待できます。
作り置きが必要なく、冷蔵庫から出してそのまま食べられるため、夏の食事に取り入れやすい食材です。
味噌は汁物に少量溶かすだけで手軽に摂れる上、ミネラル補給にもなる夏の強い味方です。

ナッツ・大豆製品(常温保存でも安定している)
アーモンド・くるみ・枝豆・豆腐などは、ビタミンB1・たんぱく質・マグネシウムを補える食材です。
ナッツ類は、水分が少なく常温でも比較的安全。
豆腐は、開封後は当日中に食べ切ることを守れば、手軽な良質たんぱく源になります。

加熱済み食品は「食べる分だけ、その都度温める」
豚肉・鶏肉・魚など加熱が必要な食材は、まとめて作り置きするより、食べる分だけ調理する習慣が夏は安全です。
どうしても作り置きする場合は、冷蔵で2〜3日以内、食べる前に中心まで十分に再加熱することを徹底しましょう。

おわりに
夏の作り置きは、正しいルールを知っているかどうかで、「時短の味方」にも「食中毒の落とし穴」にもなります。
速やかに冷やす・2〜3日で食べ切る・十分に再加熱するという3つのルールを守るだけで、リスクは大きく下がります。
栄養を摂ることと安全を守ることは、どちらも夏を健やかに過ごすための大切な習慣です。
ぜひ今日の食事から意識してみてください。
橋本 将吉先生プロフィール

内科医。『西新宿セルフライフ内科クリニック』院長。
登録者数86万人超えのYouTubeチャンネル『ドクターハッシー/内科医 橋本将吉』にて 健康教育を発信している。2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念のもと、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。
医学生向けの個別指導塾『医学生道場』を運営するほか、2022年9月には健康や医学を医師から学べるサービス『リーフェアカデミー(旧:ヘルスケアアカデミー)』をリリースし、企業や学校等でのセミナーも展開している。
2023年11月には、現役医師の目線から日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、乳酸菌飲料「乳酸菌V28」などの商品を展開している。
「櫻井・有吉THE夜会」「林修の今、知りたいでしょ!」「めざましどようび」など多数のテレビ番組に出演。
著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)、『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。
リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/
医学生道場:https://igakuseidojo.com/
リーフェアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/
ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/
