「1日1回、30センチ以上のウンチが出ているか確認してください」
そう話すのは、アスリートの腸内細菌を研究するスAuB株式会社(以下AuB)でJリーガーや元オリンピック選手らトップアスリートのコンディショニングサポートをしている上田麻実さんだ。
メディアを通し、トップアスリートが華々しく活躍する様子や、成績を知ることはできても、試合当日にベストパフォーマンスを発揮するために、どのようなコンディショニングをしているかまでは、なかなか知る機会がない。
そこでAuBの広報業務も担当している上田さんに、アスリートの体づくりをテーマに「腸内細菌」について話を聞いた。
「茶色いダイヤ」を使った腸内細菌の研究
AuBは2015年10月に創業した、アスリートの腸内細菌を研究するスタートアップ。
代表取締役の鈴木啓太氏は、サッカーJリーグチームの浦和レッドダイヤモンズのプロ選手(2000.1-2016.1)で、日本代表(A代表)としても活躍した、元トップアスリートだ。
研究をするために集めた便の数は、スポーツ選手750人分を越え、その検体数は1700を突破(2021.7時点)。「世界一の数」と自負する。
協力した選手は、五輪金メダリストをはじめ、海外の一流クラブやJリーグに所属するサッカー選手、プロ野球選手など、超トップクラスのアスリートたちで、競技も33種に及ぶという。
「茶色いダイヤ」とは「便」のこと。
便からDNAを採取し、腸内細菌の集団(腸内フローラ)を解析。
そのデータをもとに大学など研究機関と共同で、腸内フローラがヒトにもたらす効果を解明する研究を進めている。
アスリートと一般人の腸内環境は異なるのか
「トップアスリートの腸内細菌を解析してわかったことは、大きく分けて2つあります」と上田さん。
ひとつは、一般人とアスリートの腸内環境を比較すると、アスリートの方が菌の種類が豊富であるということ。
病気や疾患を患っている人の腸内環境は菌の種類が少ないという事例が多く学会等で報告されている。
そのことから、AuBは「菌の種類がたくさんあるということは、健康であるということ」を報告している。
そしてもうひとつは、免疫機能を整えたり、腸の動きを活発にしたりする「酪酸菌」という菌が、アスリートは一般人の2倍近くいることだ。
アスリートの便から新種の菌を発見
2020年9月、元オリンピック選手から、ヒトに有効な新機能を持つ腸内細菌(ビフィズス菌の菌株)「AuB‐001」を発見した。
「AuB-001」は免疫機能を整える酢酸を一般的な同種の菌より約11倍も産生する。
加えて、耐酸性に優れていることから、胃で死滅する一般的なビフィズス菌と異なり、腸まで生きて届きやすい性質であることもわかっている。
アスリートはコンディショニングのプロ
「アスリートは腸内環境を整えることも含め、コンディションを整えることも仕事です」と上田さんは言う。
実際にアスリートはどのようなことをしているのだろうか。
上田さんによると、お腹の環境を整え続ける、睡眠をよくするためにデバイスを変えてみる、など我慢や努力をしていると教えてくれた。
あるサッカー選手は、食物繊維の多い食事を摂るよう意識していて、栄養士と変わらないくらいの知識を付けているそうだ。
「きちんと食事に取り組んでいる選手は、現役生活も長い。ケガも少なくベストな状態でパフォーマンスができています」
体重を増やしたいのに増えない選手や、なかなか疲れが取れない選手などは、練習を継続的にこなすのも容易ではない。
それでも試合当日に向け、ベストな状態に作り上げなければならない。
過酷な環境下で、食事を変えたり、血液検査を行ったりしても、コンディションが良くならない理由がわからない選手もいる。
腸内細菌は、そうした選手たちの課題解決のひとつのきっかけになるかもしれないと期待がかかる。
上田さんは、腸内環境を整えるために、食事や睡眠に気を配るようアドバイスすることもあるそうだ。
腸内環境を整えるためにできること
「ご自身のウンチを観察してください」
自分の腸内環境が良いか悪いかを簡単に判断する方法を教えてもらった。
それは、1日1回必ず30㎝以上のウンチが出ているかを観察することだ。
便秘や便が固いのは、異常な状態。
いい便が出た時は、前の日に何を食べたのか生活を振り返ることも大事。
日頃の食事を見直し、「たくさんの菌を飼う」ことを意識した食生活を心掛けたい。
あまり腸内環境がよくないと感じたら
ファーストステップは、1日1個のヨーグルト、そして発酵食品を摂取すること。
ヨーグルトも毎日同じものを食べるよりは、数種類のヨーグルトを食べて摂取する菌の種類を増やすのがいいそうだ。
また、菌によって好みの食物繊維も違うため、多くの種類の野菜を摂ることもいいという。
腸内環境を整えるサプリメント
同じ食事をとっていても、腸内環境は人それぞれ異なる。
なにごとも継続することが大事だが、食生活の見直しが大変そうと感じる人には、サプリメントもおすすめだ。
AuB開発のサプリメントはヒトに有効な29種類の菌を配合しており取り組みやすい。
相談もできる‼
なかなか改善できないなど、誰かに相談したいと思った時は、AuBのホームページのお問い合わせからご連絡くださいと上田さん。
「競技に集中していても、トレーニングはしていても、コンディションを整えることを知らない人が多い。早い段階でコンディションを整えることに目を向けることは大切」と話す。
試合当日をベストコンディションで迎え、選手生活を少しでも長く続けるために、腸内環境を整えることも含め、継続的なコンディショニングが重要なことを学生アスリートの皆さんに知って欲しい。
取材 RanRun学生スタッフ 茂村優来(昭和女子大学)
<上田麻実(うえだ・あさみ)さんプロフィール>
埼玉県出身。大東文化大学スポーツ健康科学部健康科学科にて臨床検査技師国家資格取得のために学び、卒業と同時に取得。卒業後は新薬開発に関わる仕事に就く。その中で語学の重要性と興味が湧きたち、思い立って3カ月後には渡豪。
帰国後、16年にアスリートの腸内環境を研究するAuB(オーブ)(株)に入社。
Jリーガー、元オリンピック選手らトップアスリートのコンディショニングサポートに加え、広報業務を兼任。
また、同社のフードテック商品( サプリメント「AuB BASE(オーブ ベース)」(2019.12発売)、プロテイン「AuB MAKE(オーブ メイク)」(2021.1発売 )の開発にも従事。
アスリートのサポートを行う中で、自身も選手と共にバランスの良い食生活と運動を心掛けている。最近は自宅でオリジナルヨーグルトを作ることが趣味。