• 月. 4月 29th, 2024

どんなことがあっても乗り越える自信がついた 山田美諭選手(テコンドー)

山田美諭さん画像

すらりとした長身にサラサラのロングヘア。キュートな笑顔は、アスリートというよりモデルというのがぴったりの山田美諭(やまだ・みゆ)選手。華奢な見た目からは想像もつかないが、女子テコンドーでは全日本選手権5連勝という実績の持ち主だ。社会人1年目の山田選手に、テコンドーの魅力、リオ五輪とケガ、社会人になって変わったことなどを教えてもらった。

空手からテコンドーへの転身
現在、テコンドーで4年後の東京五輪代表を目指す山田選手。小学生の時は父親の経営する空手道場で空手をやっていたが、中学1年生の時にテコンドーへ転向。
成長するにつれ、体格が大きい方が有利になる空手ではだんだん勝てなくなった。ちょうどその頃、父親がテコンドーに興味を持ち始め、体が細い山田選手にも向いているのではと勧めたのがきっかけだった。
「私は空手でも足技が得意だったので、そういう点でもテコンドー向きかな、と」

日本では空手のほうがメジャーだが、世界ではテコンドーのほうが圧倒的に競技人口が多く、約7000万人にのぼる。
空手と違い防具をつけて、足技を中心にダイナミックに戦うテコンドー。
ポイントを競うルールはゲーム性があり、それも人気の理由のひとつになっている。
もちろん、五輪の正式種目であることも、競技者としては大きな魅力だ。
足を高く蹴り上げる技はテコンドーならでは。
そのため、選手はやわらかく締まった体つきで、手足が長い人が多い。
足技が自慢の山田選手も、足を垂直に180度(!)、軽々と蹴り上げる。
激しい格闘技だけに、普段からアザが絶えることがない。
減量中は、1回2時間の練習の前後で体重が2kgほど減るというハードなスポーツだ。

恩師の言葉で気づいた「本気」の意味
あっという間にテコンドーでは日本代表選手に上り詰めた山田選手。
しかし、高校生の時までは、競技への向き合い方が中途半端だったと語る。
日本代表に満足してしまい、世界で戦って1、2回戦で敗退しても、そこまで悔しい気持ちはこみ上げて来なかった。
「どちらかというと、やらされている感があったと思う」と、振り返る。

そんな競技者としての中途半端な姿勢に気づかせてくれたのが、進学した大東文化大学テコンドー部の監督だった。
監督からしてみると、試合で負けても悔しがっているように見えない。「本気でオリンピックに出たいと思っているのか」とまで指摘された。
「そんなことはない!」 最初はムキになって否定したが、ふと自分を振り返ってみると、確かにそういうふしがあることに気づいた。
監督への「見返してやろう!」という気持ちも加わり、そこからは自分の意志でテコンドーに積極的に取り組むようになったという。

まさかの五輪代表落ちとケガ
大学の4年間は、まさにリオ五輪だけを目指してテコンドー漬けの日々。
誰もが山田選手の代表入りを期待していた。
まさかの準決勝敗退。その試合で靭帯損傷という大きなケガを負ってしまう。

「足をどうかしちゃったかなとは思いましたが、そのときは足の痛みよりも負けたという事実が理解できないほどショックで…」状況がわからず泣きじゃくった。
「お前、今、泣いている場合か!」
監督の一言が山田選手を正気に戻した。

準決勝で戦った相手が優勝し、敗者復活戦に出られることになり、もう一度チャンスが回ってきたのだ。
監督の一言を聞いた瞬間、涙がすっとひき、気持ちは次の試合へ。
しかし、山田選手はその時気付いていなかったが、靭帯損傷をしている体では十分なパフォーマンスは発揮できない。
リオへの切符は山田選手の手からすり抜けてしまった。

山田選手にとって、代表落ちはこれまでの人生の中で一番の試練だったという。
1週間ほどなにもする気になれず、負けた試合のビデオを繰り返し見ては泣き続けた。
そんな山田選手を支えたのが、家族やテコンドーの仲間達だった。
周りが自分をこんなに支えてくれる、「私はなんて幸せ者なんだろう」。
そう気づいたときに、「このままじゃ終われない。絶対次の代表になって東京五輪に出よう」と決心したと言う。

4年後の自分に必要なのはハングリー精神
代表選考の試合で負けて大きなケガをしたという試練は、山田選手を一回り大きくする。
「これを経験したおかげで、これからどんなことがあっても、たいていのことなら乗り越えられる」という自信が生まれたのだ。
現在は、4年後を見据えて、過酷なリハビリに励んでいる。
ケガをする前より、より強靭な肉体を手に入れて、さらにパフォーマンスを磨いていくつもりだ。

そして、東京五輪代表になるために自分に最も必要なのが、ハングリー精神。
海外の選手は生活がかかっている人もいて、勝つことへの執着心が圧倒的に強い。
残り1秒でも、逆転をかけて技をかけるなど、最後まであきらめない粘り強さがあるのだ。

恵まれた環境でテコンドーを続ける自分には、同じようなハングリー精神がすぐに身につくとは思わないが、それでももっともっとメンタルを鍛えて、海外の選手に負けないくらい勝つことにこだわっていければと考えている。

テコンドーで身に付けたパワーと忍耐強さをアピール
テコンドーの競技者であると同時に、この4月からは城北信用金庫の職員として社会人デビューした。
JOCが運営するアスリートの就活支援制度「アスナビ」を利用して、同金庫との縁ができた。
就活のプレゼンでは、「スポーツを通して身に付けたパワーと忍耐強さ」を積極的にアピ―ル。
テコンドーの日本代表選手として表に出る機会に恵まれ、コミュニケーションスキルを磨き上げたこともプラスになった。

日本代表選手として何度も世界で戦ってきたことは、山田選手に「自覚」を持たせてくれた。
練習への姿勢だけでなく、普段の立ち振る舞いなども代表の名に恥じないようにと意識。
それが自分の「人間力」を成長させている気がする、と山田選手は笑顔で語る。

その自覚は社会人アスリートとなってから、ますます高まっている。
「学生時代は親が経済的な負担をしてくれて、戦うのは自分自身のため。でも、今は、企業が費用を出して、多くの職員が私のことを応援してくれている」
応援してくれる人たちのためにも、是が非でも東京五輪に出場して成績を残したいというのが、今の夢だ。

職場に出勤するのは週3日。金庫の中で、地域とのコミュニケーション手段を考え実行する部署に所属し、電話対応や事務作業、時にはホームページコンテンツの作成に携わることも。

yamadamiyu13

悔しさをプラスに変えるタフな心を
「私の強みは、悔しい思いや経験をプラスに変えて考えられるところ。今、学生の皆さんも、これから社会に出て辛いことに直面したとき、その経験をプラスに変えるタフな心を養って欲しいですね」
 そう語る笑顔の向こうには、決して負けないタフな格闘家の姿があった。

 

モチベーションを上げる曲 いきものがかり / 歩いていこう

yamadamiyu

 

プロフィール

氏名    山田 美諭(やまだ・みゆ)
生年月日  1993年12月13日
出身    愛知県
競技    テコンドー/49kg級
大学    大東文化大学
所属    城北信用金庫(2016年4月1日入庫)

主な戦績
2013年   WTF世界テコンドー選手権大会 49㎏級 ベスト8
アジア大学テコンドー選手権大会 49㎏級 優勝
2014年   アジア競技大会 5位/アジアテコンドー選手権大会 出場
2015年   全日本テコンドー選手権大会49kg級 優勝(5連覇)
WTF世界テコンドー選手権大会49㎏級 出場
ユニバーシアード競技大会 出場

城北信用金庫
本部所在地 東京都北区豊島1-11-1
出資総額  302億円
預積金残高 2兆3,909億円
貸出金残高 1兆1,486億円
常勤役職員数 2,000人
店舗ネットワーク 東京都北部・埼玉県南部を中心に95店舗(うち13有人出張所)
(平成28年3月末現在)

 

<ライター> 工藤千秋(くどう・ちあき)

2016年8月掲載記事リライト