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ホンモノに学ぶ アスリートを食で支える管理栄養士-味の素株式会社 ビクトリープロジェクト-

栄養学生団体「N」のスポーツ栄養チームの学生3人が2022年9月22日、味の素株式会社(以下、味の素)を訪問し、ビクトリープロジェクト®で食事の献立作成を担当する管理栄養士の鈴木晴香さんに話を伺いました。
3名とも高校まで運動部で選手やマネージャーとして活動した経験から、将来はスポーツを頑張る学生を「食」でサポートする仕事をしたいという想いを持っています。
鈴木さんご自身も、高校まで競泳に取り組み大学で管理栄養を学び、大学院でスポーツ栄養の研究をされた方で、3名にとっては親近感さえ感じられるホンモノさんです。
鈴木さんは、日本代表選手や候補という文字通りトップアスリートを「食」で支える仕事をされており、3名にとっては正にホンモノに学ぶ機会となりました。
学生たちからの直球質問に、鈴木さんはわかりやすく丁寧に応えてくださり、深く熱い取材になりました。
「N」の学生たちがホンモノから学んだこと、感じたことをご紹介します。

コミュニケーションの難しさと大切さ
栄養を学ぶ者には当たり前のことが、通じない。
鈴木さんが仕事をするうえで先ずぶち当たったのは、周囲の「栄養」に対する知識不足という壁だったそうです。
正しい情報や考え方を受け入れてもらうには、選手やコーチとの信頼関係を築かなければなりません。
そのために鈴木さんが実践していること、心掛けていることなど、ノウハウを教えていただきました。

あるフィギュアスケートの選手は、体重を落とさなければならないと食べるものを控えたことで、栄養が偏り、疲労骨折してしまいました。
先ずはしっかり食べて体を作ることをしなければならないのですが、選手もコーチもなかなか受け入れることができません。
選手にとっての目標は痩せることではなく、「勝つこと」のはず。
鈴木さんは先ずコーチにアプローチし、そして選手に「食べていいんだよ」と伝えました。
体づくりができたことで、選手は見事復活し、成績を残すことができました。

このエピソードを受け山田千尋さんは、選手やコーチにとっては「勝つこと」が食事を改善する大きな動機となり、練習や試合で成果を実感することが、選手やコーチが栄養管理に取り組む上での「やりがい」につながることを学んだと言います。
また渡辺美楓さんは、アスリートをサポートする上でアスリートから信頼されることの重要性、そのためには何でも話してもらえる存在になる必要があることを学びました。
選手の立場に立てば、理論ばかりを押し付けるのではなく、たくさん会話をして自分のことを知ってくれる相手の方が信頼しやすいはずと言います。
栄養サポートを通して、選手の体力の向上や練習の質が上がったという話は、栄養を学ぶ学生のモチベーションにもなりました。

コミュニケーションのコツ
スポーツ選手の栄養サポートには管理栄養士としての知識だけでなく、栄養に詳しくない選手にわかりやすく伝えるための言葉選び、例えば選手の興味や目標と結びつけることで栄養に関心を持たせるアプローチ、何気ない会話から選手の食事の様子を引き出すコミュニケーションスキルを知りました。
相手がどの程度の知識を持っているのか、何に興味を持っているのかなど、コミュニケーションの中で「相手を知ること」を大切にしていきたいと山田さん。

さらに、勉強会を開いて選手が自ら学んだり、目標を立てたりする機会をつくることは選手が日頃から食事を意識・改善できるような働きかけになると思ったそうで、一方的に指導、管理するのではなく、勉強会や会話の中で選手と一緒に食生活を考える方法は、勝つための食事を選手の生活の中に取り込み、意識を習慣化していくことができると思います。
これからはただわかりやすく伝えるのではなく、対象者が栄養の感覚を生活の中に取り込めるようなアプローチの視点をもつようにしていきたいと山田さんは言います。

渡辺さんは、選手それぞれに特徴や課題、目標、得意不得意があるため、同じ指導はできません。
栄養指導をしていくためには臨機応変に対応していく力を養い、常に学び続ける姿勢を持つことも大切だと感じたそうです。

おだしファースト
一緒に取材に参加した箕輪真鈴さんが気になったのは、「おだしファースト」のこと。
「おだしファースト」は、食事の前におだしを一杯飲むことで、リラックス効果をもたらしたり、食欲増進を促したりする効果を期待して、トップアスリートも取り入れている食事方法です。
「おだしファースト」というシンプルを極めた、かつ斬新なアイデアに衝撃を受けたという箕輪さんは、発案のきっかけについて鈴木さんに尋ねました。

鈴木さんはにっこり微笑んで、それは味の素が行うスポーツ栄養の代表的な企画として長年取り組んできた「汁物作戦」に由来していると教えてくれました。
食事の仕方として、最初に汁物から飲むことを推奨する「汁物作戦」。
そしてその究極版「おだしファースト」。
選手だけでなく、選手をサポートする側にとっても画期的と箕輪さんは感心ひとしきり。
汁物のレパートリーが少ない人でも、考える時間や調理の手間を省くことができます。
また、だしはシンプルであるが故に、どんな献立にも嫌煙されることがありません。
食事前に一杯飲む程度なら、とても簡単で飽きることもそうそうなさそうです。
どんな人でも、家庭で実践できる非常に画期的なアイデアだと箕輪さん。
味の素の看板商品である「だし」と、「スポーツ栄養」のかけ合わせによる化学反応が、スポーツ栄養を推進したように感じ、栄養学生として貴重な経験になったそうです。

ホンモノから聞く話は、後進として目指す者の大きな活力になります。
自分の進みたい先の具体的なビジョンとなり、成長を促します。

今回、鈴木春香さんに話を伺い、アスリートをサポートする管理栄養士は柔軟なコミュニケーションスキルが必要なことがわかりました。
日頃の会話の中から、相手の課題を見つけ、一緒に解決する仲間と認知してもらうための信頼を得るというスキル。
管理栄養士に限らず、どんな職業でも必要なスキルとして磨きをかけていきたいですね。

<プロフィール>
鈴木春香(すずき はるか)
1990年愛知県名古屋市生まれ、高校時代は競泳選手。
大学院でスポーツ栄養学を学び、15年に味の素(株)入社。
「ビクトリープロジェクト®」の全ディレクターと組む管理栄養士として選手を支える。
最重要業務は選手に提供する食事の献立作成。体重や体脂肪率などのデータを収集し、分析して栄養摂取の目標値を設定。勝利への「ストーリー」を描く。