全国社会福祉法人経営者協議会(東京都千代田区)が、福祉の現場で活躍する若手を表彰する、2024年度の「社会福祉ヒーローズ」賞の受賞者(ファイナリスト)7人を決定しました。
7人は日本一の「ベストヒーロー賞」を決める全国大会(2/19東京開催)に出場します。
今回、受賞される方々は、創意工夫を凝らし、“新たな福祉”に挑戦する、1府5県(千葉、神奈川、京都(2)、愛媛、長崎、大分)の7人。
愛媛県と長崎県の受賞者は今回初です。
「社会福祉ヒーローズ」は2018年に創設した賞で、今回で7回目を迎えます。
賞の対象は、介護や保育、障害者支援などに従事する20~30代(応募時の年齢)の若手職員です。「社会福祉の甲子園」として、「福祉の世界を変える意欲と実績のある若手」を基準に、これまで(第6回まで)に38人を表彰しています。選考は、大学教授や福祉関連の学生起業家ら有識者が担っています。
ゲストは知的障害者施設で就労経験のある、お笑いタレント「みやぞん」さん

受賞者(ファイナリスト)7人から、日本一の“福祉ヒーロ”を決める全国大会「社会福祉ヒーローズ2024」を2025年2月19日(水)に「渋谷ヒカリエホールB」(東京都渋谷区)で開催します。
当日はゲストとして、自身も知的障害者施設で約8年間就労経験がある、お笑いタレントの「みやぞん」さんを迎えます。
大会はプレゼン形式です。
出場者は、福祉を志す学生や有識者を前に、自身の挑戦を熱くスピーチします。
グランプリ(ベストヒーロー賞)は、学生と有識者の投票で決定します。
「社会福祉学生ヒーローズ」賞
また昨年度から新たに創設した、魅力的な福祉活動に取り組む学生を表彰する「社会福祉学生ヒーローズ」賞の受賞団体への表彰も行います。
対象者は、高校や大学、専門学校の団体やサークルで活動する方々です。
イベントは動画投稿サイト「ユーチューブ」※で生配信します。
大学生や専門学生らに視聴を呼びかけ、未来の日本社会を支える若者に“福祉の仕事の魅力”を発信します。
※公式URL:http://www.youtube.com/@全国社会福祉法人-k5u
2024年度の「社会福祉ヒーローズ」賞 受賞者
【京都府】(福)花ノ木 飯田真菜(いいだまな)
気持ちをうまく言葉で表現できない障害児の“気持ちサイン”を見逃さない

京都府亀岡市にある、放課後等デイサービス「はなのき放課後等デイサービス」(社会福祉法人花ノ木)に勤務する飯田さんは、自分の気持ちを言葉で表現するのが難しい重症心身障害児の指導員として、児童の「気持ちのサイン」を集めています。
大事にしているのは、子どもたちの意思表示をいかにして引き出すかを考えること。
そして、遊びや普段の行動の中に、意思表示のサインが出ていないかと目を配ること。
例えば、散歩の帰り道、「好きな絵本を一冊選ぶ」というプログラムを導入したとき。
飯田さんは、児童自らが本を選び終えるまで、根気よく待ち続けます。決して自身が本を選ぶことはせず、児童がどれにしよう、と悩む時間を大切にします。
そうした日々を積み重ねると、ある児童は、何かを要求する時に、その物を自分で手に取る行為が見られるようになりました。
例えば、いつもの散歩コースを見直し、歩く範囲を広げたとき。
ある子は、自分の行きたい場所に近づくと、指を差してそのことを伝えようとするようになりました。

普段眠っていることの多い子が、楽器で音楽を演奏しながら手遊びをすると、その刺激で目を覚まし、好きな曲で笑顔を見せるようになりました。「児童の興味関心を限りなく引き出すこと。新しい遊びや場所を見たり、体験したりすることで、児童の興味関心の選択肢を増やすこと。それらが将来的に本人の意思決定に影響を及ぼすのではないか」、飯田さんはそう考えます。
言葉で表現しなくても、視線や心拍数、緊張のほぐれなど、何かしらのサインを見逃さない。
児童に眠る「たくさんの思い」を引き出そうと、日々、奮闘しています。
京都府の今年度の受賞者は2人で、受賞人数は東京都と並ぶ最多の計5人となります。
【大分県】(福)博愛会 小野海利(おのかいり)
障害者の技能大会出場を通じて就労支援、7年がかりで金メダルを獲得した方も

大分県大分市の就労継続支援A型事業所「博愛会地域総合支援センター」(社会福祉法人博愛会)で支援リーダーを務める小野さんは、障害がある方の「喫茶店(カフェ)」への就労支援に取り組んでいます。
特に力を入れているのが、「全国障害者技能競技大会」(アビリンピック)への出場にかかるサポートです。
アビリンピックは、障害のある方が職場で培った技能を披露し、職業能力の向上や雇用促進につなげる大会で、種目の一つに「喫茶サービス種目」があります。
支援した方がその種目で活躍して、自信をつけて欲しい、小野さんはそう願います。

昨年度は、博愛会が運営するカフェで働く、軽度の障害がある女性が、予選を勝ち抜いた43人の出場選手を制し、金賞に輝きました。同大会に挑戦し始めて7年がかりでの快挙でした。
カフェのホールに立ち出したころの彼女は、「恥ずかしくて相手の顔を見て話せない子」だったと言います。
そんな彼女が、課題をノートに書き出し、一つ一つ克服してくよう、小野さんは伴走しました。金メダル獲得に小野さんは、「彼女の職場だけでなく、県内の喫茶サービスの底上げにつながれば嬉しい」と話します。
大分県の受賞者は3人目です。
【京都府】(福)みねやま福祉会 西田夏音(にしだなつね)
面会を隔てたアクリル板をキャンバスにして意思疎通、「今を最も輝かせる」工夫の数々

京都府宮津市の特別養護老人ホーム「マ・ルート エルダータウン」(社会福祉法人みねやま福祉会)で介護職に就く西田さんは、「今を最も輝かせる支援」に取り組んでいます。
コロナ禍のこと、面会は「パネル」を挟んで行われていました。
コミュニケーションを阻むアクリル板に“モヤモヤ”を抱いていた西田さんは、パネルが透明であることに着目。
入居者と面会者の両者が同時に、両面から絵を描くコミュニケーション手法を思い付きます。
お互いが絵を描く姿を見合い、描いている双方の絵を楽しむ、年齢や立場を超えてつながり合える機会になりました。
関節が動かなくなる拘縮(こうしゅく)が進行した高齢者が、パネルの向こうで絵を描く子どもを見て、筆を動かし始めたこともありました。

コロナが落ち着くと、面会をより楽しく思い出に残るものにしようと、入居者と家族が一緒になってアート作品をつくるイベントも行いました。
出来上がった作品を前に、みんなの会話が弾み、面会がより楽しく、思い出深い場に変わりました。
「ライフミュージアム」と名付けた独自の取り組みにも力を入れています。
入居者一人一人に質問を重ね、人生を深掘りし、聞いたことを分かりやすく資料にまとめ、それらをスタッフで共有しています。
そうすることでスタッフみんなが「あの人はこういう趣味があり、こんな仕事に関わっていらっしゃったのか」と、今まで知らなかった“その人”の人物像を知ることができ、各人がその情報も念頭に入居者とのコミュニケーションに役立てています。
西田さんは、笑顔を引き出したり、その人がもつ可能性を広げたりと、そんな支援に努めています。
京都府の今年の受賞者は2人で、受賞人数は計5人となります。5人は東京都と並ぶ最も多い人数です。
【神奈川県】(福)若竹大寿会 西条大地(さいじょうだいち)
利用者だけじゃない!<職員>に「寄り添うこと」も福祉の仕事の醍醐味

神奈川県横浜市の社会福祉法人若竹大寿会の法人本部に勤務する西条さんは、法人内に今までなかった「キャリアアドバイザー」というポジションを築き、職場のスタッフ(仲間)に寄り添い、仲間の魅力を引き出し、仲間が誇りを持って介護の仕事を語れるようにして、その背中を押しています。
キャリアアドバイザーの役職をつくるきっかけになったのが、後輩からの相談でした。
後輩は「もっと人のためになる仕事がしたい、もっと人に笑顔になってもらえる仕事がしたい」と悩んでいました。
それを聞いた西条さんは違和感を覚えます。
彼はいつも、人を笑顔にする仕事をしていたからです。
西条さんは彼に寄り添い、仕事内容を振り返りながら、本人がやっている仕事がどれほど人を笑顔にしているのか、彼自身に気づきを与えながら、本人の口からその事実を引き出しました。
話し終えると後輩は、ポツリと呟きました。「笑顔にできているんですね」。

西条さんは気づきます。
「利用者に寄り添うこと」で感じていた介護のやりがいや達成感は、「仲間に寄り添うこと」でも生まれるのだと。
これを機に、キャリアコンサルタントの資格を半年かけ取得し、上司に掛け合い、法人内に新たなポジションを作ったのです。
西条さんが、「寄り添うこと」を大事にするのは、ある認知症の方との一件からです。
その人は夜、頻繁に起き上がり、ベッドに座るのです。排泄かな?と思い、「トイレへ行きますか」と案内する西条さんに、「ありがとう」とお礼を言いつつも、そうでないためか、ベッドに横たわるのです。そしてまた起き出して、ベッドに座るのです。

西条さんは、横に座って話を聞くことにしました。
すると、トイレットペーパーを差し出して、「うどん食べる?」と言うのです。
最初は理解できず戸惑うも、会話を繋ぎ合わせると、自分のためにうどんを作ってくれたのだということに気づきます。
西条さんは感謝の気持ちを伝え、その“うどん”をいただきました。
そうすると、満面の笑顔見せて、安心されたといいます。
気持ちが満たされた顔を見て、「相手の気持ちに寄り添えた時に、本当の“ありがとう”をもらえるんだ」ということを学んだと言います。
西条の受賞で、神奈川県の受賞者は3人となります。
【長崎県】(福)ながよ光彩会 原田竜生(はらだたつお)
給与アップは一時的な対処、日常にあふれる福祉の魅力を発信、業界の人材不足の解消へ

長崎県長与町の「特別養護老人ホームかがやき」(社会福祉法人ながよ光彩会)の施設長、原田さんは、「福祉業界の人材不足」という課題に向き合い、独自の解を導き出し、課題を解決しようと取り組んでいます。
原田さんは断言します。
「給与のベースアップは、一時的な対処法であって、それだけでは根本的な解決にはつながらない」と。合わせて重要なのは、「自分の仕事の魅力を、自分の言葉で語れること」と言い、「日常の中に福祉の魅力があふれている」と話します。
ある時、「おばあちゃんを孫の結婚式に連れて行きたいが、認知症や車椅子の移動に不安がある」と迷う家族がいました。

職員は付き添いを提案しましたが、職員への負担を考慮して、その案は一度遠慮されました。
けれども職員たちは、おばあちゃんが式にサプライズ登場できるようホテルにかけあい、家族の特別な思い出作りをサポートしました。
「仕事の魅力を感じることのできた」この一件は、他の職員にも伝播します。
「誰かのために」と、利用者の様々な要望を叶えようと、職員たちが動き出したのです。

原田さんは「地域に根ざした福祉を次世代へ伝えることも大切」と考えており、長崎県と共同で「福祉学習プログラム」を考案しました。
「気づく」「対話する」「行動する」という3本柱で構成しており、子どもたちが校内の“バリア”を見つけ出し、グループディスカッションを通じて解決策を考えるという内容です。
先生からは、「子どもたちが福祉を自ら学び、自ら考えるというプロセスが非常に効果的」と高い評価を得ています。
原田さんは「子どもたちが福祉の問題を、“自分ごと”として捉えられるきっかけを提供したい」と話します。
長崎県の受賞者は原田が初めてです。
【愛媛県】(福)育和会 白川凜太郎(しらかわりんたろう)
目に見えない心の成長に目を向けて、理想の保育を探求!

愛媛県久万高原町で社会福祉法人育和会が運営する、幼保連携型認定こども園「久万こども園」と児童館・学童保育「NIKO NIKO館」に勤務する白川さんは、0歳から「久万こども園」に入園し、18歳までを「NIKO NIKO館」で過ごしました。
大学卒業後は同会の保育教諭・児童厚生員を務めています。
そんな彼は今、「自分が受けてきた、どこか温かみのある保育の要因はなんだったのだろうか」「先代の先生たちが残してきた決して揺るがない理念とはどんなものだろうか」を若手スタッフの立場から追求しています。
それは、74年の歴史ある育和会(1950年設立)が約30年前から取り入れてきた北欧の保育思想の継承でもあります。

近年の保育に対して、「発達や教育など、数値化された目に見える具体的な育ちへの意識が高まり、何もかも先を見据えた支援や配慮を優先してしまっているのではないだろうか」と問題定義し、目に見えない人としての心の育ちに焦点を当て、「本物の自然」と「日常生活」をベースにした理想の保育を探求しています。
子どもたちを一つの生命体として捉え、自然の中で思いっきり遊び回り、ランチを楽しみ、ゆったり休むことができる。
そんな人間生活の根底を軸とした、“ロマンのある保育”を実践しています。
愛媛県の受賞者は初めてです。
【千葉県】(福)根木内福祉会 中島友美(なかじまともみ)
その人に合わせた“オーダーメード介護”を実践…訪問介護の傍ら介護技術の普及も

千葉県松戸市の訪問介護「リバーサイド・ヴィラホームヘルプサービス」(社会福祉法人根木内福祉会)に勤務する中島さんは、訪問介護の傍ら、地域がより良くなるためにと、住民らに向けて介護技術の普及活動を行っています。
自宅で介護に悩んでいる人はたくさんいます。
そんな方が「そんな方法があるのですね」「優しいケアの仕方ですね」と技術を学んで家に持ち帰り、「(介護が)楽に、安心してできるようになりました」「私も優しくケアできるようになりました」と悩みから救われた声を寄せてくれることに、自分も救われた気持ちになると言います。
今では行政からの依頼で介護技術の講師も務める中島さんですが、最初から技術があったわけではありません。
初めての訪問介護で「あなたに介護をされるのは不安だ」と言われたことを、今でも覚えています。
背が高く体重のある男性で、体格の小さい中島さんに不安を抱いたのです。
その後、先輩から徹底的に技術を学びました。
技術を習得するうちに、その男性は「あなたになら安心して任せられる」と声をかけてくれるようになったと言います。

そんな彼女が今、実践しているのが、「オーダーメード介護」です。
基本的な技術をベースにしながら、介助する時の力の入れ加減や介助者の身体の動かし方など、その人に合わせた方法を模索して、介護の仕方をパーソナライズしています。
中には、言葉を発することのできない方もいます。
いまやっているケアが心地良いのかそうでないのか、相手の表情からはもちろん、体がこわばってないかなど触れる手からも感じ取ると言います。
今年で介護一筋20年。まだまだ“若手”を自負する中島は、今日も目の前の利用者のために介護をカスタマイズし続けます。
千葉県の受賞者は前大会に続き2人目です。
「社会福祉学生ヒーローズ」賞 詳細と受賞団体一覧
全国社会福祉法人経営者協議会は昨年度(2023年度)の「社会福祉ヒーローズ」から、学生を対象にした「社会福祉学生ヒーローズ」賞を新設しています。
本賞は、高校や大学、専門学校の団体やサークルで福祉の魅力を伝える、創意工夫あふれる学生による活動を表彰するものです。
今年度は、以下3点を基準に各応募団体を審査し、4団体に授与します。
■ 学生ならではの視点があるアクションを含むか
■ 地域や学内の人たちに活動を通して福祉の魅力を伝えられているか
■ 地域や学内での活動の広がりが感じられるか