• 水. 4月 17th, 2024

誰かのために頑張る気持ちが自分を強くした 女子ラグビー 大竹風美子選手①

「新しいことに挑戦し続ける人」自分をそう表現するのは、日本女子ラグビー界で活躍する大竹風美子選手。2021年3月に大学を卒業したばかりの、日本女子ラグビー界初のプロ選手だ。東京五輪出場を目標に参加した代表候補合宿中の2月、前十字靭帯損傷という悲劇が起きた。手術後のリハビリを終え、所属する東京山九フェニックスに合流を果たしたばかりの大竹選手に話を聞いた。

パソコンのモニターに現れた大竹選手は、チャーミングな笑顔が印象的だ。
術後3か月経った現在は、膝の可動域も回復し、筋肉をつけるトレーニングを行っている。
今月(6月)から合流した東京山九フェニックスは、和気あいあいとしたチームで初めて会うチームメイトとも直ぐに打ち解けることができた。
同じ怪我の経験を持つ先輩からはアドバイスをもらっている。
メンバーが多い分試合出場への競争率は高いが、そんなチームの練習を傍で観ることで自身のモチベーションも上がる。

原点は陸上選手 短距離走から七種競技へ
陸上競技に取り組んでいた大竹選手は、スポーツの強豪校である東京高等学校(東京都大田区)に推薦で進学した。
当時は短距離走の選手だった。
中学では東京都大会優勝の実績を持つ大竹選手も、強豪校にあっては選手の中で埋もれてしまう。
悩んでいた高校2年生の時、コーチから七種競技への誘いを受けた。
七種競技とは、100メートルハードル、走高跳、砲丸投、200メートル走、走幅跳、やり投、800メートル走を2日間かけて行うハードな競技だ。
覇者はクイーン・オブ・アスリートと称されるほど、身体能力の高いアスリートが競い合う。
推薦入学ということもあり、結果を出せなかったらどうしようという不安もあったが、「風美子らしく、思いっきりやったらいいよ」というコーチの言葉に背中を押された。
「この人についていこう」
七種競技へ転向し、高校3年生でインターハイ6位入賞を果たす。
この恩師の存在が、大竹選手を人としても大きく成長させた。
陸上競技は個人種目ということもあり、自分のために頑張っている選手が多い。
しかし大竹選手は恩師との出会いで、「誰かのために頑張る」という意識が芽生えた。
支えてくれる人たちへの感謝、そしてその人たちのために頑張ろうという意識を持つようになったことで、結果を出せるようになったと振り返った。

東京高等学校はラグビーの強豪校でもある。
7人制ラグビーを観た時に、まるで鬼ごっこのような楽しさに魅了されたと話す大竹選手。
チーム競技への憧れもあって、高校3年生の秋にラグビーを始めた。
陸上部で、3~5㎏のボールを持って走るダイナマックスという体幹を鍛えるトレーニングをしていたため、ボールを持って走ることには違和感はなかったと話す。
とはいえラグビーではボールを抱えてトップスピードで走ることが要求される。
七種競技で培った力を活かし、ラグビーでも直ぐに頭角を現していった。

ラグビー日本代表サクラセブンズのメンバーとして世界へ
日本体育大学へ進学し、体育学部体育学科の学生として怪我予防やメディカル面での知識を学びながら、ラグビー選手として躍進する。
世界の舞台を経験し、価値観が大きく変わったと大竹選手。
パフォーマンスの違いはもちろん、LGBTQなど社会的課題を考える機会も増え学ぶことが多かったそうだ。
大竹選手にチーム競技の魅力について聞いてみた。
すると「試合会場へ向かう時も一人じゃないこと」と即答。
ピッチに立てば、自分の前にも後ろにも仲間がいて、気分も高揚する。
チームの勝利を仲間と喜び合う瞬間は、個人競技では味わえない魅力だ。

プロアスリートへの決心
世界をフィールドに日本女子ラグビーチームの中心的存在へと成長する中で、東京五輪出場は大竹選手にとっても大きな目標だった。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で東京五輪開催延長が決まり、大竹選手は競技に集中するため就職活動はせず、プロになることを選択。
日本女子ラグビー界では初のプロ選手の誕生だ。

しかしそれは大学卒業目前に起きた。
日本代表候補合宿中の2月、大竹選手は前十字靭帯損傷という大怪我を負ってしまう。
コンタクト競技ゆえの接触プレーによる怪我。
「避けようのない怪我だから仕方なかった」
そう語る大竹選手の表情はサバサバしている。
東京五輪出場という目標は目前で断たれてしまったが、既に次の目標に向かって踏み出しているからだろう。
怪我をした時は、(プロになるという)自分の選択は正しかったのか不安になったと本音を明かしてくれた。
しかし、「これは自分に課された試練」と考えた。
マネジメントするUDN SPORTSの支えがあり、前を向くことができたと話す。


「スポーツはうまくいくことばかりではありません。うまくいかないことも、目標に手が届かないことも含めてスポーツだと思います」と言い、「そこから再起して成果をあげることでドラマが生まれる」とグランドの外でも活躍することはできると話す。
そのドラマが、他の人にも勇気を与えることができるからだ。
常に新しいことに挑戦し続けてきた大竹選手。
プロという選択をしたことで、先駆者として後輩へ新たな道を示していきたいと意気込む。

<プロフィール>

生年月日:1999年2月2日
身長・体重:172cm/71kg
所属・ポジション:東京山九フェニックス WTB

代表歴
2017年 北海道知事杯2017
2018年 ラグビーワールドカップ・セブンズ2018サンフランシスコ大会
2018年 第18回アジア競技大会(2018/ジャカルタ・パレンバン)
2019年 HSBCウィメンズセブンズセブンズワールドシリーズドバイ大会
2020年 HSBCウィメンズセブンズセブンズワールドシリーズシドニー大会

取材 RanRun編集部 Yuki Yanagi

2021年7月掲載記事リライト