「一人で生きていない。でも、一人で生きている自分もいる」 ミク役の趣里さんの朗読が、詩人でもある福間健二監督の独特の空間へと誘っていきます。ストレスから声が出なくなった作家、彼の才能を信じて待つ編集者、作家を支える妻、閉塞感の中でもがく60代の3人の前に、突然、奇妙な若い女性が現れます。森の中から突然現れたミク(趣里)を、最初、妖精かと思いました。
宮本守(伊藤洋三郎)は、書籍編集者。
親友で作家の村岡正夫(佐野和弘)の代表作『秋の理由』を編集し、世に送り出しました。
しかし、それ以来、村岡は原稿を書くことができません。
スランプの苦悩から、声が出なくなってしまいました。
宮本と村岡は、筆談で会話をします。どこかもどかしい二人の男。
宮本は独身。村岡の妻 美咲(寺島しのぶ)に好意を寄せています。
村岡の才能を信じて、また村岡の本を出すために、苦しいながらも出版社を続ける宮本。
しかし、純粋な友情だけでなく、自分の中にある美咲への思いが、動機のひとつでもあるという事実に悩む宮本もいます。
先の見えない生活に疲れ果てている美咲は、宮本の気持ちに気づいています。
やり場のない思いを抱えた3人の60代の前に、突然、ミクが現れ・・・
「僕は来た。僕は行ってしまう・・・」
ミクと初めに出会うのは、宮本です。
ミクは透明感のある不思議な空気を持った女性。
村岡の代表作『秋の理由』の大ファンで、何度も読んだというミク。
『秋の理由』の一節を朗読するミクの声が随所で流れ、映画『秋の理由』の空気を作り出しているように感じました。
『秋の理由』の作者 村岡とミクもまた、別のところで出会います。
村岡は、ミクを『秋の理由』のヒロインに似ているといいます。
ミクは人の心を読めるのか、宮本と村岡の心を読み取り背中を押すことで、止まっていた歯車が動き出します。
変わっていくのは、60代だけではありません。
不思議な雰囲気のミクもまた、自分の居場所をみつけ、普通の20代の女の子へと変わっていきます。
不安を抱える人々が、出会いによって少しずつ変化していく様が伝わってきました。
ミクを演じる趣里さんのインタビュー記事はこちら
映画『秋の理由』
10月29日より新宿K’s cinemaにてロードショーほか全国順次公開!
監督 福間健二
出演 伊藤洋三郎 佐野和宏 趣里 寺島しのぶ
配給・宣伝 渋谷プロダクション
©『秋の理由』製作委員会