• 金. 12月 13th, 2024

敗戦を引きずらないープラス志向脳の作り方

「メンタルケア」担当の、心理学博士で心理カウンセラーの高野雅司です。
今月、いよいよ最終回は、「敗戦を引きずらない」というテーマでお届けします。

ちょうど今月、女子サッカーのオリンピック最終予選で、「なでしこジャパン」は初戦の敗戦から上手くチームを立て直すことができず、残念ながらオリンピック出場権を逃してしまいました。
もちろん、そこにはいくつもの要因が絡んでいたでしょうが、第2戦と第3戦では「次は絶対に勝たなくては…」といったプレッシャー、メンタルな問題が大きかったように感じました。実際、予選敗退が決まって以降のプレイぶりは、だいぶ変化していましたし…。

皆さんは、試合に負けてしまった時、失敗やミスをしてしまった時などは、どんな風に過ごしているでしょうか?
もちろん、悔しかったり、悲しかったりもするでしょうが、いつまでも引きずらないで、それを上手く糧にして、前向きなエネルギーへと変えていけるといいですよね?
そのために大切になるのは、次の2つのステップです。

試合に負けた時にすべき2つのステップ

1)マイナス感情をしっかり吐き出す
まずは、自分が感じているマイナスの感情を表現しきっちゃいましょう。
残念、悔しい、悲しい、ショック、失望、腹立たしい、がっかり、情けない、やりきれない、納得いかない、申し訳ない、後ろめたい、恥ずかしい、などといったさまざまな思い…負けたり失敗したりした時には、誰にとっても当然の自然な感情です。

それを、思うがままに紙に書きなぐったり、思い切り泣いたり、時には叫んだり、できたら手足をジタバタさせるなど全身を使って、自分の気持ちを外に表現するようにしてください。

「そんなことしてたら、余計に引きずるのでは?」と思われるかもしれませんね。
実際にはまったく逆で、感情というのは、ちゃんと表現さえしてあげれば、それで消えていくものなんです。
でも、そうしないでおくと、心の何処かにいつまでも残ってしまって、何かの拍子にまた出てきてしまいます。
ですから、自分の感情を心の内側に押し込めてしまわないでください。
あまりきちんと認識されていないようですが、これがとても重要なポイントです。

一般的には、イヤなことがあったら、爆睡したり、飲み食いしたりしてウサを晴らすなど、何か気晴らしをして気分を切り替える、というようなアドバイスが多くみられますが、それだけだと、一時的なごまかしに過ぎず、ふと思い出して繰り返しクヨクヨしてしまうなど、本当には切り替わっていないことが多いのです。

2)「問題点や原因」でなく「良かった点や理想」にフォーカスする
最初のステップで十分に自分の感情を吐き出し、スッキリしたら、今後に向けて試合を振り返っていきましょう。
そうした際には、多くの場合、試合中のさまざまな場面を客観的に振り返り、敗戦や失敗の原因と問題点を分析し、反省し、改善案を考える、といった作業が一般的かと思います。

でも、私がオススメしたいのは、そうした「問題解決」型の振り返り方でありません。
反省もある程度は必要ですが、問題点やその原因を明らかにして、それを解決するために努力するのは、なかなか気が重い、大変な作業となりがちです。
ですから、「問題を無くすために何をするか?」と考えていくのではなく、むしろ「理想を実現するために何をするか?」という発想に切り替えてみてください
その方が楽しいですし、未来に向けたモチベーションが湧きやすいのです。

サッカーであれば、たとえば「シュートのミスを無くすために…」ではなく、「思った通りのショートを決めるために…」の方がワクワクしませんか?
しかも、問題自体を意識して解消しようとしなくても、理想を追い求め、それを達成していけば、自ずと問題も解決されてしまっているわけですから…。

また、敗戦の中でも、自分が上手く出来たところや場面の方に意識を向けて、これまでに繰り返しご紹介してきたイメージ・トレーニング法も行なってみましょう。
敗けたからといって全てがダメだったわけではなく、上手くいったところも何かあるはず。

本番の緊張感の中でも上手く出来た時の自分を意識し、じっくりと振り返っていく時間は、理想のプレイに近づいていくための大きな助けとなります

★心の基礎体力 ~“心地よさ”でプラス志向の脳に変えていこう!
再びイチロー選手のエピソードですが、野球や自分自身のプレイについて、自分がまだ理解できないことに出会ったり、気づいたりした時には、いつも「おっ、自分はまだまだいける!」と思うのだそうです。
つまり、未知や未熟さは「まだ自分には伸びしろがある証」と捉えて、「ダメだ~」ではなくて、次の目標ややる気へと自然に転換できているわけですね。

今回の「敗戦を引きずらない」という意味でも、そうした「心の基礎体力」をしっかり養っていくことも非常に大切です。
これまでの回でも触れてきたように、個人差はあるものの、基本的に人間の脳は「マイナス志向」にできていて、マイナス方向に気持ちが向きがちなので、負けたり、失敗したりすると、不安になったり、自分を責めたり、前向きに考えるのが特に難しいものです。

しかし、最近の脳科学の発見のひとつとして、そうした本来の「マイナス好き」な脳を変え、より肯定的な心を育むためのポイントが明らかになってきました。
それは、“心地よさ”をじっくりと感じ、味わうこと。
何かいい体験をした時に、しっかり時間を取って、その時の「快」の感覚をじっくり感じていると、そうしている間に新しい脳の神経回路が生まれ、よりプラス志向の脳へと少しずつ変わっていくのだそうです。

ですから、上手くいかない時などに「マイナス思考」に陥らない自分になるためには、日頃から次のようなクセをつけておくといいでしょう。

1)練習中や試合中の「いい体験」の方を思い出し、味わうようにする。
失敗や問題に気持ちが向きがちかもしれませんが、意識的に「いい体験」にフォーカスしてみましょう。
このポイントは、これまで3回の内容にも絡むので、よかったら読み直してみてください。

2)日常生活の中でも、「いいこと」があったら、その時の「快」を感じるようにしてみる。
ゴハンが美味しい、おしゃべりが楽しい、プレゼントをもらって嬉しい、庭のお花がキレイで癒やされる…そうした、日々の中のちょっとしたことでいいので、そうした時の心や身体の温かさや緩む感じなど、自分の中に起きてくる“心地よい”感覚を意識して、少し長めに感じるようにしてみてください。

3)夜、寝る時は、「いい体験」を思い出して“心地よさ”を感じ直しながら眠る。
日中はなかなか忙しくて、じっくりと「快」の感覚を味わう時間は取りにくいでしょうね。
夜、お風呂に浸かりながら、温かさやリラックス感をゆっくり味わうようにしてみてください。
また、フトンに入ったら、その日にあった「いい体験」を何か具体的に思い出し、その時の“心地よさ”を感じ直しながら眠るようにしましょう。
寝付きも良くなるはずです。

こうしたことを、楽しみながら日々繰り返していくと、自分の脳自体を実際に変化させていくことが出来ます。
普段の自分の心がけ次第で、誰でもがよりプラス志向の脳に変わり、マイナスの出来事をいつまでも引きずらずに、前向きに考えられるようになっていけるのです!

さて、今月も含め、「メンタルケア」というテーマでお届けした全4回の内容、いかがでしたでしょうか?
ぜひ自分なりに工夫しながら、取り入れてみてくださいね。
皆さんが、今後も高いモチベーションを維持し、最高のパフォーマンスを発揮し、自分が理想とする目標を達成していくために、この連載記事が何かしら役立ったなら嬉しいです。

そして、大好きな競技にこれからも打ち込んでいってください!

<講師紹介>

髙野 雅司(たかのまさじ)
心理学博士(Ph.D.)、ハコミセラピー公認シニアトレーナー
一橋大学卒。コンサルティング会社勤務を経て渡米。カリフォルニア統合学研究所 (CIIS)東洋西洋心理学部を卒業し、博士号取得。「マインドフルネスの意識」と「心と身体のつながり」を大事にする心理療法「ハコミセラピー」公認トレーニングを修了し、心理臨床の経験を深める。1997年帰国。コミュニケーショ ン全般に関する研修/コンサルティング。東京や関西を中心にセラピー・セッション、ワークショップや研修トレーニングを実施。
現在、日本ハコミ・エデュケーション・ネットワーク(JHEN)、日本ラビングプレゼンス協会代表、日本トランスパーソナル学会理事、日本ソマティック心理学協会 SPN(ソマティック・プラクティショナー・ネットワーク)世話人。
高校時代よりロックやR&Bのバンドでヴォーカルを担当し、現在もライブ活動継続中。

日本ハコミ・エデュケーション・ネットワーク(JHEN)
http://hakomi-jhen.com

日本ラビングプレゼンス協会
http://loving-presence.net

<モチベーションを上げる時に聴く曲>
I’m A Soul Man / James Brown、We Wiil Rock You / Queen& 自分のバンドのライブ録音!
著書・訳書に、『人間関係は自分を大事にする。から始めよう』(青春出版)、『トランスパーソナル心理療法入門』(日本評論社/編共著)、『ハコミセラピー』(星和書店/共訳)、『魂のプロセス』(コスモスライブラリー/訳)など。

(2016年3月掲載記事リライト)

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