• 月. 5月 13th, 2024

ボートを通し磨かれた強い精神力―明治大学 辻村みよ子教授

先達に学ぶ第1回は、一橋大学端艇部女子部第1期生でOG会会長でもある明治大学法科大学院の辻村みよ子教授。先生ご自身のスポーツを通して培われた力、社会が求める女性リーダー像について、さらにスポーツ女子へのアドバイスを聞いた。

端艇部女子部創部
辻村氏が一橋大学に入学した1968年当時、1年生800人の内、女子は10人。女性用トイレや更衣室も無いような環境だった。テニスサークルなどを除き、女子部のある運動部は殆どなかった。一橋大学端艇部が全日本で優勝した直後だったこともあり、ボートというスポーツに憧れて女子4人で入部した。陸トレを小平分校で行い、戸田での合宿も年間100日くらい経験した。2年生1人にコックス(舵手)を頼み、レースにも出場した。辻村氏は中学高校とバレーボールをやっていたが、他の3人は運動部未経験。合宿所に女子施設があるはずもなく、女子が合宿所に入ることには男子が軟弱になるという理由で反発もあったそうだ。

現在の一橋大学艇庫

レース戦績
ボート部伝統の東商戦(東京大学VS一橋大学)。当時、東京大学ボート部には歌手の加藤登紀子さんも所属していた女子部があり、女子の東商戦を目指そうということになった。しかし1969年頃は東大紛争でそれどころではなく、共立女子大学ボート部と女子レースを行ったという。大学院に進学した辻村氏は、大学院1年目に全日本社会人レガッタのスカルに出場し、銀メダルを獲った。しかし女子部は、3年間部員が続いた後、一時消滅した。20年近くたって復活し、2008年から東商戦女子レースに優勝、2010年にはインカレで銀、2012年には全日本ボート選手権女性エイトで銀メダルを獲るなど力をつけている。

スポーツを通して得たもの
辻村氏は、ボート競技を通して、連帯感・忍耐力・どんな苦境でも反発できる活動力がついたと語る。男性中心の社会(憲法の学界)ではなかなか就職もできず、出産育児をするうえでも困難な道だったという。1999年に東北大学教授として単身赴任した時は、日本で初の国公立大学法学部女性憲法教授となった。諦めない心、粘り強さ、強い精神力は、スポーツの賜物だと振り返る

チームメイトは一生の宝
一緒に端艇部に入部した4人とコックスの1人。同期(男女)とのつながりは深く、共に勉学にも励んだ。合宿所の学習室で司法試験や大学院入試の準備などをする時、いつも複数の同輩がいたという。卒業後、辻村氏は研究者となり、1人は弁護士、3人は教師になった。共に戦った仲間は一生の友人だ。ネットワークの大切さ知る辻村氏は、0Gが120名を超えた2013年、端艇部OB会としての四神会のなかにOG会を組織し活動している。また、東京大学や千葉大学卒のメンバーが中心となって関東女子ローイングクラブ(KRC)OG会が1990年に設立され、今年25周年を迎えた。横のつながりの中でレガッタ・研修会等の活動をしているそうだ。

現在の学習室

日本の現状
憲法学・ジェンダー法学者でもあり、内閣府男女共同参画会議議員を務める辻村氏。男性中心型社会、性別役割分担が固定化された社会から、今、日本が変わらなければならない時だと語る。ジェンダーギャップ指数(GGI)2015年版では日本は145ヵ国中101位、衆議院の女性比率に至っては190か国中154位と発展途上国にも遅れをとっている状況だ。男女共同参画社会基本法が1999年に制定され、2015年12月中には第4次男女共同参画基本計画も閣議決定される予定。女性の活躍促進法等の施行など少しずつ変革してきているが、女性リーダーを増やすためには、女性労働の環境改善、仕事と家庭の両立支援、ポジティブ・アクションなどの措置が必要だ。

社会が求める女性リーダー
女性リーダーとして求められるのは、実力(エンパワーメント)、精神力、自信、と語る辻村氏。ネットワーク(人とのつながり)を持ち、家族や友人との連帯も必要だという。辻村氏自身、ボートを5年間やりとげたことで精神力がつき、自信となった。同じ課題を抱える人同士がネットワークを作り意見交換をすることで、社会を変えていく力になる。

スポーツ女子へのメッセージ
現役の間は体力や精神力をつけることが基本だが、その上にエンパワーメント、専門性(専門的な知識や技術・プロ意識など)が必要。視野を広く持って、社会・経済・法律・理系・医学など、性別役割分業にとらわれない分野でチャレンジすべき。スポーツの経験が、精神的にも身体的にも必ず支えになる。人とのつながりを大切にし、ネットワークを作り、友人、夫婦を問わず助け合うこと。性差よりも個性、多様性が大事です。

<辻村みよ子氏プロフィール>

東京都出身。一橋大学助手、成城大学・東北大学教授、パリ第二大学比較法研究所招聘教授などを経て2013年より明治大学法科大学院教授。法学博士。21世紀COE・グローバルCOE拠点リーダー、日本学術会議会員・男女共同参画分科会委員長、ジェンダー法学会理事長、全国憲法研究会代表を歴任。現在、国際憲法学会理事・日本支部副代表、内閣府男女共同参画会議議員等。近著に、『ポジティブ・アクション』(岩波新書2010年)、『人権をめぐる十五講』(岩波書店2013年』、『比較のなかの改憲論』(岩波新書2014年)、『選挙権と国民主権』(日本評論社2015年)など

(2015年12月掲載の記事をリライトしています)