社会人アスリートインタビュー第2回は、全日本柔道連盟52Kg級B強化選手で了德寺学園(千葉県浦安市)所属の西田優香(にしだゆか)選手。了德寺大学で、合宿明けの西田選手に話を聞いた。
<ライフスタイル>
日本女子柔道を引っ張ってきた一人である西田選手は、先月30歳の誕生日を迎えた。同期の強化選手たちが次々と引退していく中で、ただ一人、自分の目標に向かって日々練習に励んでいる。母校の淑徳大学に出向き、午前2時間、午後3時間の練習メニューをこなす。睡眠時間は8時間。JISSでの合宿がある時は、1日に3回の練習メニューが組まれるそうだ。
1人暮らしの現在は、基本自炊をしている。料理は好きなのだそうだが、階級制のある柔道では、体重制限が必須。普段は、バランスよく栄養を摂りやすい鍋料理が多い。試合に向けた体重調整は3週間かけてするそうで、西田選手の調整方法を教えてもらった。
1週目はカロリーを抑えるため、野菜中心の食事
2週目は食べる量を落とす
3週目は水分を減らす
試合前日に完全に体重を落とし計量するので、当日に体重を戻すのだそうだ。
体重制限による月経トラブルの有無について尋ねると、ストレスによる過長月経(生理が止まらない)になったそうで、貧血にならないよう対策をしたという。
<ファッション>
朝のトレーニングはランニングからスタートするため、日焼けには気を使う。外を走る時は、必ず日焼け止めを塗る。大学への通学など柔道をしない外出時は、まつ毛のエクステを付ける。「30歳にもなってスッピンで外出するわけにはいかないでしょ」と笑みを浮かべる。柔道家も女子力が高い。ファッション関係の情報は雑誌から収集することが多い。体がゴツイのでスタイルをよく見せる服の形などのアドバイスが欲しいそうだ。
女子柔道家は手にコンプレックスを持っている人が多いという。爪が弱いため、透明マニキュアを塗って補強する人もいるそうだ。相手の道衣を掴むので、爪が剥がれることもあり、日頃から短く切っておく。驚いたのは、指の形。指が変形していない柔道家はいないそうで、「手を見れば柔道家だとすぐわかりますよ」と西田選手。
<柔道の魅力>
西田選手は柔道の魅力について、柔道は日本においてオリンピックのメダル獲得数が最多の競技であることだと語る。また、柔道が世界に普及した理由のひとつとして、その教育的側面を挙げた。西田選手には後輩の指導をやりたいという夢がある。柔道一筋にやってきたため、いつか柔道を辞めた時に何もない状態にならないよう、体育の教員免許を取得することにした。現在、昼間は了德寺大学で教職科目を履修しているそうで、今年、母校の淑徳高校に教育実習に行く予定だ。「柔道のルールは難しいですが、直接、観に来てもらうとその良さがわかります」とコメントした。
<柔道との出会い>
柔道一家に生まれた西田選手が柔道を始めたのは5歳の時。子供の時から柔道は生活の一部だったと振り返る。小学校卒業と同時に親元の山梨県を離れ、中学から上京し寮生活がスタートした。この時、柔道家への覚悟ができたという。
中学から始まった寮生活は、朝のランニングに始まり、朝食を食べて学校に行き、授業の後の部活という毎日。洗濯は自分でやる。朝食作りは当番制。当番になると、夜、米とぎをしてから就寝。朝、みんなの朝食を作る。夕食は用意されるが、片付けは当番の仕事。ここで生活の基盤ができた。親元に帰省するのは夏休みと冬休みだけ。寮生活で我慢することを覚えた。合宿などで勉強も遅れがちになり、先生にお願いして勉強を教えてもらった。頑張った結果ならよしとするが、頑張らなかったために結果を出せないことに対し学校は厳しかったという。西田選手は中学・高校・大学と内部進学した。高校から入学してきた4人、大学から入学してきた3人と仲良し8人組は今でも親友だ。
<メンタルの強さ>
柔道の試合というと、選手同士の睨み合いが印象的だ。そのことについて西田選手に尋ねると、試合の時は相手を倒すことだけを考えていると教えてくれた。勝つことだけを考え、隙を作らない。隙を作り集中していないと、ケガをする。勝つためのイメージトレーニングとして、自分の良かった試合の映像を観るようにしているそうだ。
海外遠征の際は、iPadを必ず持参する。空き時間にiPadで映画を観ることもあるそうだが、対戦相手が決まると、映像を観ながら作戦を立て、勝つためのイメージを作る。
<目標>
今の西田選手の目標は、今年開催されるリオ五輪の代表選手最終選考に残ること。4月の選考会に向けての練習が続く。現役女子の中で年齢が上から2番目になった。ロンドンオリンピックまでは同期という仲間がいたが、今、強化選手の中で現役を続けているのは自分だけ。北京オリンピック、ロンドンオリンピックの最終選考に漏れた時、それまで何十年も取り組んできたこと、大きなものを失ったという喪失感と悔しさを味わった。だが、達成できなかったことに対して、諦める方法がわからなかったという。それは、「まだできる」という想いが自分の中にある証拠。リオ五輪に向け、引退した仲間達が試合の度に応援してくれる。仲間の存在の大きさを感じながら、西田選手はリオ五輪出場をかけ励んでいる。
<スポーツ女子へのメッセージ>
スポーツをやってきた人は、我慢強さや諦めない心などは大前提。厳しい上下関係の中で育ってきたので気が利くし、視野も広いので、社会に出てもすぐ順応できると思います。
柔道のような個人競技に取り組む人は自律性が強く、チーム競技に取り組む人は協調性が強いと感じています。
<モチベーションを上げる曲>かりゆし58 / ウクイウタ
<プロフィール>
氏名 西田優香
生年月日 1985年12月27日
階級 52kg
出身県 鹿児島県
出身高校 東京都淑徳高等学校
出身大学 淑徳大学
所属 学校法人 了德寺学園
<主な戦績>
2002 全国高等学校選手権大会 優勝
2003 全国高等学校選手権大会 優勝
全日本ジュニア体重別選手権大会 優勝
福岡女子国際選手権大会 3位
2004 全日本ジュニア体重別選手権大会 優勝
世界ジュニア選手権大会 優勝
2005 全日本学生体重別選手権大会 優勝
2006 講道館杯日本体重別選手権大会 準優勝
2007 全日本選抜体重別選手権大会 優勝
世界選手権大会 3位
2008 ハンガリー国際大会 準優勝
ドイツ国際大会 3位
講道館杯日本体重別選手権大会 準優勝
嘉納杯東京国際グランプリ 優勝
2009 全日本選抜体重別選手権大会 優勝
グランドスラム・リオデジャネイロ 優勝
講道館杯全日本体重別選手権大会 優勝
2010 マスターズ・スウォン 3位
全日本選抜体重別選手権大会 準優勝
グランドスラム・モスクワ 優勝
ワールドカップ・ウランバートル 優勝
世界柔道選手権大会 優勝
国民体育大会(千葉県代表) 優勝
グランドスラム・東京 優勝
2011 マスターズ・バクー 準優勝
グランプリ・デュッセルドルフ 優勝
アジア選手権大会 優勝
グランドスラム・モスクワ 準優勝
世界柔道選手権大会 準優勝
2012 マスターズ・アルマティ 優勝
グランドスラム・パリ 優勝
アジア柔道選手権大会 優勝
全日本選抜体重別選手権大会 準優勝
2013 全日本選抜体重別選手権大会 準優勝
2014 全日本選抜体重別選手権大会 優勝
講道館杯全日本体重別選手権大会 優勝
グランプリ・チンタオ 準優勝
グランドスラム・東京 準優勝
2015 全日本選抜体重別選手権大会 3位
アジア選手権大会(団体戦) 優勝
アジア選手権大会(個人戦) 3位
講道館杯全日本体重別選手権大会 優勝
グランプリ・チンタオ 優勝
※ 全日本柔道連盟52Kg級B強化選手
取材 RanRun編集部 Yuki Yanagi
(2016年1月取材記事リライト)