
YouTubeやメディアでも活躍する内科医・橋本将吉先生(ドクターハッシー)が、ヘルスリテラシーを高めるための実践的な 健康知識をお届けする連載。医師だからこそ伝えられる“正しい情報”を月替わりテーマで解説します。
連休明け、なぜか身体が動かない。理由もないのに気分が沈む—それは「5月病」かもしれません。
医学的な正式名称ではないものの、多くの人が経験するこの不調。
第7回は「5月病」の正体と、日常でできるケア方法をわかりやすく解説します。
内科医の橋本将吉(ハシモトマサヨシ)です。
連休明けの月曜日の朝。
アラームが鳴った。
でも身体が動かない。
「行かなきゃ」と頭ではわかっているのに、
布団から出られない。
気づいたら、
ただ天井を見つめていた—。
そんな経験、ありませんか?

医師として多くの人の話を聞いてきましたが、この時期に「なぜか身体が動かない」「理由もないのに涙が出る」という経験をする人は、思っているよりずっと多いんです。
それは怠けでも、根性が足りないわけでもない。
脳と自律神経が、限界に達しているサインです。
今日は「5月病」の正体を医師の立場から発信し、悩んでいる方が少しでも心が軽くなってくれたら嬉しいです。
5月病ってそもそも何?
「5月病」という言葉に、医学的な定義はありません。
日本独自の表現で、強いて分類するなら適応障害や軽度のうつ、あるいは気圧・気候の変化に身体が反応する「気象病」と近い状態といえます。
そのメカニズムとしては、4月は入学・入社・異動など、環境が大きく変わる季節のため、新しい人間関係や慣れない仕事を前に、身体はずっと緊張モードで動き続けています。
ところが大型連休に入ると、その緊張が一気にほどける。
その反動で、それまで見えなかった疲弊やストレスが一気に噴き出してくるのです。
また、今年(2026年)のゴールデンウィークは、有給休暇を2日足すだけで最大8連休、さらに組み合わせ次第で12連休以上も実現できる暦の並びになっています。
一見うれしいニュースですが、医学的には注意が必要です。
長期間の休養で身体がすっかり「休みモード」に切り替わってしまうと、明け後に日常リズムを取り戻すために身体にかかる負担がその分大きくなります。
休みが長いほど、連休前後の落差も大きくなる—これが5月病のリスクを高める要因のひとつです。

どんな症状が出る?
心と身体の両方に症状が出るのが、5月病の特徴です。
| 身体に出るサイン | 心に出るサイン |
| ・慢性的なだるさ、疲れが抜けない感覚 ・頭痛や胃腸の不調 ・食欲が湧かない ・寝付けない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう | ・何もしたくない、動く気力がわかない ・物事に集中できない ・気持ちが沈んでいる ・イライラしやすい |
どれかひとつだけなら別の原因も考えられますが、いくつか重なっているなら身体からのサインと受け取ってください。
なぜ起きるのか—3つのメカニズム
5月病が起きる背景には、身体的・心理的な3つの要因があります。

① 心が「適応ストレス」を起こしている
人は新しい環境に入るとき、空気を読む、関係性を覚える、ミスをしないよう緊張する—
意識しないうちに、ものすごいエネルギーを使っています。
心理学ではこの状態を「適応ストレス」と呼びます。
最初は緊張感や高揚感で乗り切れるのですが、連休で気が緩んだタイミングに、それまで蓄積してきた疲労や不安が一気に表面化しやすくなるのです。
②体内時計が狂ってくる
脳にある「視交叉上核」が体内時計の司令塔です。
ここが睡眠・ホルモン・自律神経のリズムを管理しています。
連休中に夜更かしや寝だめを繰り返すと、このリズムが乱れて、日中のだるさや気力の低下につながります。
③自律神経のバランスが崩れる
自律神経には、活動時に働く交感神経と、休息時に働く副交感神経があります。
この2つのバランスが崩れると、体温調節や消化、睡眠がうまく機能しなくなります。
気候の変わり目はこのバランスが特に崩れやすく、セロトニンやドーパミンといった気分に関わる脳内物質も減少しやすくなります。
日常でできるケア
日常に取り入れられる簡単なケア方法をご紹介します。
まずできそうなことから試してみてください。
1. 朝の光でリセットする
起きたらすぐにカーテンを開けて、朝の光を浴びましょう。
これが体内時計を正しい時刻に合わせるいちばん簡単な方法です。
毎朝同じ時間に起きることも、リズムを整えるうえで効果的です。

2. 寝る前のスマホをやめる
質のいい眠りのために、就寝の1時間前はスマホやパソコンから離れる時間を作りましょう。
画面の光が脳を覚醒させてしまうためです。
代わりに、温かい飲み物を飲んだり、読書をしたりする習慣に切り替えてみましょう。

3. 身体を少し動かす
激しい運動でなくて大丈夫です。
朝のストレッチや深呼吸、近所を少し歩くだけで、自律神経が整い気分が変わります。
外の空気を吸うこと自体にも、気持ちをリセットする効果があります。

4. 「今日はこれでいい」と決める
つらいときに頑張りすぎると、回復が遠のきます。
「できない自分はダメだ」ではなく、「今の自分にはこれで十分」と意識的に許可を出してみてください。
セルフコンパッション(自分への思いやり)は、心の回復に科学的に有効なアプローチです。

5. 意図的にオフの時間を作る
副交感神経を優位にするために、「何もしない時間」を意識してスケジュールに入れてみましょう。
好きなディフューザーを使ってリラックス空間を作る、お気に入りの入浴剤を使ってお風呂に浸かる—そういった時間が、神経系のリカバリーを助けてくれます。
ラベンダーやイランイランなどのリラックスしやすい香りや、体を温めるためにジンジャーの入っている入浴剤を使用するのもおすすめです

2週間以上続くなら、受診してほしい
生活を整えれば多くの場合は回復します。
ただ、以下のような状態が2週間以上改善しない場合は、別の疾患が隠れている可能性があります。
ひとりで抱え込まず、医療機関に相談してください。
・強い憂うつ感・無気力が続いている
・眠れない、または眠りすぎてしまう
・食欲がまったくない、または体重が急激に変化している
・学校や仕事に行けない日が続いている
心療内科・精神科に行くことへのハードルを感じる人も多いですが、まずはかかりつけの内科でも構いません。
「最近つらくて」と話すだけでいい。それが最初の一歩です。

おわりに
5月病になることは、弱さでも失敗でもありません。
4月を一生懸命生きてきたから、身体がそう反応しているだけです。
「おかしいな」と感じたら、まず休むこと。
そして2週間以上しんどさが続くようなら、専門家を頼ること。
自分の身体のSOSに、ちゃんと向き合ってあげてください。
橋本 将吉先生プロフィール

内科医。登録者数85万人超えのYouTubeチャンネル『ドクターハッシー/内科医 橋本将吉』にて健康教育を発信している。
2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念のもと、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。医学生向けの個別指導塾『医学生道場』を運営するほか、2022年9月には健康や医学を医師から学べるサービス『ヘルスケアアカデミー』をリリースし、企業や学校等でのセミナーも展開している。
2023年11月には、現役医師の目線から日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、乳酸菌飲料などの商品を展開している。
「櫻井・有吉THE夜会」「林修の今、知りたいでしょ!」「めざましどようび」など多数のテレビ番組に出演。著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)、『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。
リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/
医学生道場:https://igakuseidojo.com/
ヘルスケアアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/
ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/
