―全国2,459人の活動量計調査から見えた、女性と20代の身体活動の特徴-
「週末はスポーツをしているから大丈夫」「毎日ウォーキングをしているから運動不足ではないはず」。
そんなふうに思っていませんか。
運動習慣があっても、日常生活で長時間座っている人は少なくありません。
そして、座って過ごす時間が長いほど、総死亡リスクが高まることが、これまでの研究で報告されています。
笹川スポーツ財団と明治安田厚生事業団が2026年10月7日、「活動量計による身体活動・スポーツの実態把握調査2025」記者説明会を開催しました。
発表者は、川上諒子氏(明治安田厚生事業団体力医学研究所副主任研究員)と松下由季氏(笹川スポーツ財団シニア政策オフィサー)。
国内初・全国代表値となる「身体活動量」を提示し、 運動・スポーツ実施状況と身体活動との関連、 年齢による座位行動時間の特徴 などについて説明しました。
そこで明らかになったのは、日本人が1日の活動時間の約6割を座って過ごしているという実態です。
そして、今回の調査から見えてきたのは、運動・スポーツの実施状況だけでは捉えきれない身体活動の実態と、身体を動かしやすい環境の重要性です。
「身体活動」とは、スポーツだけではない
健康づくりを考えるうえで、まず知っておきたいのが「身体活動」という考え方です。
身体活動とは、身体を動かすすべての活動のこと。
ジョギングや水泳などの運動・スポーツだけでなく、通勤・通学、買い物、掃除、洗濯など、日常生活の中で身体を動かすことも含まれます。
身体活動の強度を表す指標「メッツ(METs)」
安静に座っている状態を1メッツとして、その何倍のエネルギーを消費するかを表します。
例えば、通常の歩行は約3メッツで、安静に座っている状態の約3倍のエネルギーを消費する活動という意味です。
今回の調査では、身体活動を強度によって次のように分類しています。
- 低強度身体活動(1.6メッツ以上3メッツ未満):ゆっくり歩く、皿洗い、立ち話など
- 中高強度身体活動(3メッツ以上):通常の歩行、早歩き、ジョギング、ランニングなど
一方、座ったり横になったりして過ごす、1.5メッツ以下の覚醒中の行動を「座位行動」と呼びます。
つまり、健康づくりを考えるときには、運動・スポーツをしているかどうかだけでなく、日常生活の中でどれくらいの強度で、どれくらいの時間、身体を動かしているかが重要なのです。

日本人は1日の活動時間の約6割を座って過ごしている
今回の調査では、全国47都道府県の20~79歳の男女を対象に、活動量計を使って身体活動を測定しました。
2024年度と2025年度のデータを統合し、2,459人を分析しています。
その結果、1日あたりの座位行動時間の中央値は523.7分。
約8.7時間でした。
活動量計を装着していた時間のうち、座位行動が占める割合の中央値は57.4%。
実に約6割を座って過ごしていることになります。
一方、低強度身体活動は36.3%、中高強度身体活動は5.8%でした。
また、1日10時間以上の座位行動をしている人は全体の30.1%。
約3人に1人が、長時間座って過ごしている実態が明らかになりました。

座りすぎと総死亡リスクとの関連
座って過ごす時間が長いことは、健康にどのような影響を与えるのでしょうか。
川上氏の発表資料では、2019年に医学誌『BMJ』に掲載された研究を紹介し、長時間の座位行動と総死亡リスクの上昇との関連を指摘しています。
総死亡リスクとは、原因を問わない死亡のリスクを指します。
さらに、2026年の医学誌『The Lancet(ランセット)』に掲載された、集団レベルで座位時間を1日30分減らすことで、総死亡を3.0%または7.3%抑制できるという研究について紹介しています。
ただし、これは個人の死亡リスクが一律にその割合だけ下がることを意味するものではありません。
カナダの「24時間行動ガイドライン」では、成人・高齢者の座位時間を1日8時間以下に抑えることが推奨されています。
日本の今回の調査結果である約8.7時間は、この目安を上回っています。
もちろん、座位時間が長いことだけで個人の健康状態が決まるわけではありませんが、長時間の座位行動が健康リスクと関連することは、見過ごせない問題です。

運動していても、座りすぎの人はいる
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に対し、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上行うことを推奨しています。
今回の調査では、この推奨量を満たしていた成人は45.1%でした。
さらに、運動・スポーツを実施している成人でも43.3%が推奨量に達していませんでした。
一方、運動・スポーツを実施していない成人でも38.4%が推奨量を満たしていました。
運動・スポーツをしていなくても、仕事や家事、移動などの日常生活で十分な身体活動量を確保している人がいることがわかります。
また、運動・スポーツを実施している成人の32.5%が、1日10時間以上の座位行動をしていました。
運動・スポーツをすることには健康上のメリットがありますが、それだけで日常生活の座りすぎが解消されるわけではありません。
運動する時間だけでなく、運動していない時間の過ごし方にも目を向ける必要がありそうです。

女性は歩数が少なくても、低強度の身体活動時間が長い
今回の調査では、男女の身体活動にも興味深い違いが見られました。
成人の1日あたりの歩数の中央値は、男性7,317歩、女性6,619歩。
男性の方が多い結果でした。
座位行動時間も男性540.5分、女性523.9分と、男性の方が長くなっています。
一方、低強度身体活動時間は、男性297.4分に対し、女性376.4分。
女性の方が約80分長いことが、わかりました。

中高強度身体活動時間は男性56.6分、女性55.7分と、男女で大きな差はありませんでした。
女性は男性より歩数が少なくても、日常生活の中で低強度の身体活動を長時間行っている傾向が示されました。
家事や立ち仕事、ゆっくりした歩行などは、歩数だけでは十分に評価できない活動です。
今回の調査は、身体活動を歩数やスポーツ実施率だけで評価することの限界も示しています。

ただし、低強度身体活動が多ければ、中高強度の身体活動が不要になるというわけではありません。
それぞれの活動を含めて、1日全体の身体活動を考えることが大切です。
20代は座位時間が長く、低強度の身体活動が短い
年代別の結果で注目したいのは、20代の身体活動の特徴です。
男女ともに20代の座位行動時間が最も長く、男性565.3分、女性554.3分。
約9.3時間に達していました。
一方、低強度身体活動時間は男性255.8分、女性299.1分と、男女ともに20代が最も短くなっています。

大学での講義や勉強、デスクワーク、スマートフォンやパソコンの利用など、若い世代の生活には座って過ごす場面が多くあります。
こうした生活環境も、座位時間が長くなる背景として考えられます。
ただし、今回の調査だけで、その原因を特定することはできません。
20代の座りすぎを、個人の運動不足として捉えるだけでなく、学校や職場などの環境から考える必要があるのではないでしょうか。
身体を動かしやすい地域ほど、推奨量を満たす人が多い
では、日常生活の中で身体活動を増やすためには、何が必要なのでしょうか。
今回の調査では、暮らしている地域の環境と身体活動量の関係についても分析しています。

自動車がなくても生活しやすい地域では、身体活動の推奨量を満たしている人が52.4%だったのに対し、そうでない地域では44.3%でした。
また、歩く機会が多い地域では50.2%、そうでない地域では42.6%と、7.6ポイントの差が見られました。
利用しやすい運動場所が多い地域や、運動教室・スポーツが盛んな地域でも、推奨量を満たす人の割合が高い傾向にありました。
これらの結果は、身体活動量が個人の運動習慣だけでなく、周辺環境とも関係していることを示しています。

「運動しましょう」から「自然に身体を動かせる社会」へ
健康のために身体を動かすことが大切だとわかっていても、誰もが自由に運動する時間を確保できるわけではありません。
仕事や勉強、家事などに追われる毎日の中で、身体活動を増やすためには、個人の努力だけでは解決できない課題もあります。
例えば、歩きやすい道路や利用しやすい公共交通機関、気軽に立ち寄れる公園、座りっぱなしにならずに過ごせる学校や職場。
特別な運動をしなくても、日常生活の中で自然に身体を動かせる環境があれば、健康づくりの機会は広がります。
座りすぎによる健康リスクを減らすために必要なのは、「もっと運動しましょう」と個人に呼びかけることだけではありません。
誰もが無理なく身体を動かせる環境を、社会全体で整えていくこと。
身体を動かす機会が、年齢や性別、住んでいる地域、生活環境によって大きく左右されない社会をつくることは、ウェルビーイングの実現にもつながるはずです。
健康づくりを個人の努力だけに任せない。
今回の調査は、そんな社会のあり方を考えるきっかけを与えてくれています。

【調査概要】
調査名:活動量計による身体活動・スポーツの実態把握調査2025
実施機関:公益財団法人笹川スポーツ財団、公益財団法人明治安田厚生事業団
調査時期:2024年11月、2025年11月
対象:全国47都道府県の20歳以上80歳未満の男女
解析対象者:2,459人
調査方法:活動量計を7日間装着して身体活動量・座位行動時間などを測定。運動・スポーツ実施状況や生活環境については質問票で調査。
発表日:2026年10月7日
※調査結果の時間・歩数は主に中央値。活動量計の装着時間は睡眠時間などを除くため、「1日の約6割」は24時間全体に占める割合ではありません。
参考資料
- 笹川スポーツ財団・明治安田厚生事業団「活動量計による身体活動・スポーツの実態把握調査2025」
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
- 川上諒子氏「全国活動量計調査からみた日本人の身体活動の実態」発表資料(2026年10月7日)
