男子に混じってアメフトに取り組んだ学生時代。現在は、米国女子プロアメフトチーム「Seattle Majestics」に所属し、オフェンスタックル、ディフェンスタックルとして活躍する金髙恵美選手に、アメフトの魅力、アメリカでのライフスタイル、スポーツで培った力などについて話を伺った。
アメフトを始めたきっかけ
アメリカンフットボールにハマったのは、13歳のころ。
TVで日本選手権を見たことがきっかけだった。
夢も希望も願えば叶えられると信じて疑わなかった中学時代、「私もカッコよくなりたい!」と突っ走って、そのまま今に至っている。
当時は中学生でプレイできるチームがなく、お年玉で購入したボールを学校に持って行き、友達と無理やりキャッチボールしていた。
アメフトの魅力
アメフトは完全分業制なので、必ず自分にもできるポジションがある。
金高選手が務めるオフェンスラインは、球技でありながらパスを取ったら反則になる。
人とぶつかることは怖くないが、ボールが怖い自分にはピッタリのポジションだと話す。
また、戦略次第で個々の能力が劣るチームでも、勝つことができるのもアメフトの魅力。
1プレイ毎にプレイが止まるのがアメフトの特徴。
ただの休憩時間ではなく、その僅かな時間で作戦を立てているそうだ。

学生時代
高校はもちろんアメフト部のある学校に進学。
当然だが選手は男子だけ。
入学と同時に「選手として入部したい」と直談判したが受け入れてもらえず、マネジャーをすることになった。
2年生に進級するタイミングで、コーチから「まだ選手をやりたいなら…」と声がかかり、晴れて選手になることができた。
しかし、連盟から「何かあった時に責任が取れない」という理由で、公式戦には出場することができなかった。
大学に進学し、再びアメフト部の門を叩くが、ここでも選手は男子だけ。
運よく同好会から部に昇格したばかりだったので、経験者としてすんなり受け入れてもらうことができたそうだ。
しかし、秋のシーズンが終わる時に学生連盟から直接電話があり、「来年以降は女子選手の登録は認めない規約を作る」と言われた。
キャプテン、監督、コーチと相談し、何とか認めてもらえるように働きかけ、条件付きで女子選手の登録が認められることになった。
シーズン前にみんなで合宿した時、同期が「みんなの布団敷いときました!」と言って、金高さんの布団も大部屋に敷いてくれた。
選手として認められていると喜んでいいのか、女性として終わっていると落ち込むべきか、悩みながらも一緒に寝たのは、良い思い出であり良い話のネタになっている。
シアトルでの生活
食事については、シアトルは海沿いの街なので新鮮な魚介類がたくさんある。
アメリカの食事なので分厚いステーキを期待していたが、シーフードを食べる機会が多いそうだ。
フルーツ類はとても安く小玉スイカが$1で驚いた。
おやつとしてリンゴを丸齧りしていたのは、イメージ通りだった。
日系スーパーもあり日本の食材も手に入るので、特に大きな違いは感じていない。
NFL(National Football League)チームのシアトルシーホークスの試合がある日は、男性でも女性でもほぼユニフォームを着ている。
普段着としてもシーホークスの帽子、パーカー、Tシャツは良く見かけるという。
春になりMLB(Major League Baseball)も始まると、シアトルマリナーズのグッズを身に着けている人も良く見かけるようになった。
アメリカにおいて、4大スポーツはとても生活に密着していると感じている。
<日本とアメリカの考え方の違い>
日本で女性がスポーツを続けていると、必ず直面する年齢、結婚、出産の壁。
アメリカでは全く関係なかった。
結婚、出産を経験している選手もたくさんいて、50歳近い年齢でもRookieの選手もいる。
それは特別なことではない。
日本の女子選手ももっと欲張って良いと思うし、周囲ももっと理解、協力すべきだと感じている。

プロチームに所属するということ
日本国内では試合すらできなかったので、毎週末試合ができることはとても楽しい。
試合でも練習でも、自分より大きい相手、パワーのある相手と当たるので、1対1ではなかなか勝つことは難しい。
プロチームでも金銭面の苦労があるそうだ。
プロと言っても、練習場所、試合会場の確保、遠征費などなど、スポンサーからの援助、興行収入だけでは賄いきれず、結局は選手の持ち出しになる。
日本でも定着してきたクラウドファンディングをしたり、ユニフォームを着て街に繰り出し直接寄付のお願いをしたりと、チーム全体で収益をあげるための活動もしている。
スポーツを通して培った力
気持ちの切り替えの速さ
アメフトは1プレイずつプレイが止まり作戦会議をするが、前のプレイの事を考えている余裕はない。
たとえプレイが失敗だったとしてもすぐに気持ちを切り替え、次のプレイに集中することが求められるため、普段の生活で嫌なこと、辛いことがあっても、ダラダラと悩まずに、できるだけ早く解決するようになった。
チームワーク作業
完全分業制のアメフトでは、自分のタスクを全うすることが求められる。
それぞれが別のことをしていても、全員が自分のタスクを全うすることで、一つのプレイが完成する。
金高さんが働いていた医療業界の場合、医師・看護師・医療技術者等、それぞれができること、やるべきことは異なるが、チームとして患者様の治療にあたる。
みんながみんな同じことをすることがチームワークではなく、足並みを揃え、出しゃばりすぎず、出遅れず、自分のテクニックを磨きつつ、周囲に合わせていくという考え方は、アメフトをしている金高さんにはとても馴染みやすいものだったそうだ。
今後の目標
ワールドチャンピオンを目指して頑張っています。
将来的には、日本代表チームを結成したいと思います。
学生へのメッセージ
今後、人生の岐路が何度か訪れると思いますが、続けるか辞めるか悩んだ時は、まずは続ける道を探してみてください。
「何かのために大好きなスポーツを諦めることはない」と、アメリカに来て感じています。
両方掴み取ったらいいんです!
もっともっと欲張っていきましょう!

モチベーションを上げる曲 らっぷびと/All Day, All Night
<プロフィール>
金髙恵美(かねたか・えみ)
東京医科歯科大学卒業
東京都立三田高校でアメフトを始め、東京医科歯科大学在学中は大学のアメフト部と社会人女子アメフトチーム「Lady Kong」に所属。
2013年女子アメフトチーム「Tokyo BLAZE」を設立。
現在、米国女子プロアメフトチーム「Seattle Majestics」に所属し、オフェンスタックル、ディフェンスタックルとして活躍中。